ある日突然感じる「かゆみ」。かゆみを伴う皮膚疾患にはさまざまな種類があります。肌にかゆみを感じる時、考えられる病気や原因、かゆみへの対処法について見ていきましょう。
湿疹でかゆみが起きる原因
「かゆみ」は皮膚の異常を知らせる信号
湿疹によってかゆみが起きるのは、私たちの身体に備わった「警報システム」の一つです。皮膚の中に異物を感知すると、免疫系は攻撃態勢に入り、「ヒスタミン」などのかゆみの伝達物質を放出して皮膚に異常が起きていることを知らせます。これによって私たちは強いかゆみを感じるのです。
湿疹によるかゆみのほとんどは、汗による刺激、植物や金属・化学物質によるかぶれ、虫刺され、日光、ドライスキンなどがきっかけで起こります。
肌のバリア機能の低下もかゆみを引き起こす
ドライスキンとは、その名前のとおり“肌が乾燥している状態”のことです。健康な肌の場合、皮脂膜でコーティングされたみずみずしい角質層がバリアとなり、異物の侵入を防いでいます。
しかし肌が乾いた状態が続くと、角質層が破壊されてバリア機能が失われていきます。肌のバリア機能が障害されると、刺激に対して無防備になるので、肌トラブルが起きやすくなります。
また、表皮がダメージを受けることによって、知覚神経が敏感になり、衣服のこすれや洗剤などのわずかな刺激でもかゆみを感じやすくなるのです。
かゆみが起きやすい部位
かゆみは全身どこでも起こりますが、最もかゆみが起きやすい部位は、「繰り返し刺激を受ける場所」です。汗をかきやすく、衣服のこすれが起きやすい「首筋」、水や洗剤に触れることの多い「手指」、衣服による圧迫やムレが生じやすい「おなか周り」などです。
年齢とともに皮脂の分泌が低下するため、皮膚が乾燥しやすく、肌トラブルを起こしやすいので注意しましょう。最初ひざの下から始まり、年齢とともに徐々に上方の皮膚にも拡大していきます。特に冬場にかゆくなります。
夏場は、肌を露出する機会も多く、刺激にさらされることも増え、また紫外線も強いため、「顔・首筋・腕・脚」の皮膚がダメージを受けやすく、肌トラブルも増えます。
かゆみを伴う皮膚疾患
かゆみを伴う皮膚の病気には、以下のようなものがあります。
湿疹(皮膚炎)
湿疹とは、かゆみを伴う皮膚の炎症のことで、皮膚炎とも呼びます。症状の程度はさまざまで、大小のブツブツや水ぶくれができることもあります。一過性のものを「急性湿疹」、症状が長引いて患部の皮膚が分厚く変化したものを「慢性湿疹」と呼びます。
蕁麻疹(じんましん)
円形または地図状のぷっくりした大小のふくらみが突然現れます。かゆみが強く、患部が熱っぽくなることもありますが、数十分~数時間以内に消え、痕は残りません。
アトピー性皮膚炎
強いかゆみを伴うジュクジュクした湿疹が繰り返し現れます。湿疹は顔、耳、首、わきの下、ひじ、ひざなどに左右対称に出て慢性化します。アトピー素因を持つ人に見られ、遺伝性があります。
接触皮膚炎
いわゆる「かぶれ」のことです。薬剤、金属、植物の刺激に肌が負けて炎症が起きます。原因物質に触れていた箇所だけにくっきりと症状が出るのが特徴です。原因物質の刺激によって、誰にでも起きる「刺激性接触皮膚炎」と、アレルギー体質が関係する「アレルギー性接触皮膚炎」があります。
脂漏性皮膚炎
頭皮や毛髪の生え際、顔面など、皮脂分泌の盛んな部位に、乾燥したうろこ状または黄色っぽくジュクジュクしたフケが出ます。思春期以降~中高年の男性に比較的多い病気です。マラセチアというカビの一種が関係していると考えられています。
乾燥湿疹(皮脂欠乏性湿疹)
乾燥によってバリア機能が障害され、かゆみを感じて肌を掻き続けることで炎症が起きます。高齢者に多く、すね、太もも、胴体など、もともと皮脂の分泌が少ない部位に、カサカサした湿疹が出ます。秋から冬にかけて、空気の乾燥する季節に悪化します。
皮膚そう痒症
目で見てわかる炎症や皮疹がないのに、かゆみを感じます。広い範囲にかゆみを感じることもあれば、身体の一部にのみかゆみを感じるケースもあります。内科的な病気が関わっていることもあります。
虫刺症
いわゆる「虫刺され」です。蚊、アブ、ダニなどに刺されて炎症が起きます。虫に刺されてすぐに腫れてかゆくなる「即時型反応」と、1~2日たってから症状が現れる「遅延型反応」があります。症状の程度は、毒性の強さや、体質によってさまざまです。
光線過敏症
日光に含まれる紫外線によって皮膚に赤みや発疹ができる病気で「日光アレルギー」とも呼ばれ、症状がひどいものは薬剤の影響によることが多いです。塗り薬や貼り薬または飲み薬の成分が、日光に反応してひどいかぶれを引き起こします。光線過敏症と気づかれることが少ないため、徐々に症状がひどくなり、時間とともに炎症が広がることが多いです。
対策・予防法
かゆい時は、掻きむしらずに冷やす
かゆいとつい掻いてしまいがちです。しかし患部を掻きむしって表皮を傷つけると、肌のバリア機能が低下し、湿疹が悪化して化膿することも。さらに、掻くことによって、知覚神経を刺激するかゆみ物質が放出され、かゆみの症状もひどくなります。
かゆくて我慢ができない時は、冷水や保冷材を使って患部を冷やすのが効果的です。冷やすことで毛細血管が収縮し、炎症にブレーキをかけることができます。
刺激から肌を守る工夫を
外部の刺激から肌を守るために、正しいスキンケアで保湿するようにしましょう。ワセリンなどで乾燥を防ぎ、肌のバリア機能を保ちましょう。
紫外線の強い季節は日焼け止めを使用する、レジャーには虫よけスプレーを使用するなど、シーンに合った方法でケアすることが大切です。
湿疹が起きる原因がわかっている場合は、原因物質を避けるようにします。
市販薬でセルフケアできる場合
- 湿疹の原因がはっきりしている
- 全身ではなく、部分的に症状が出ている
という場合は、湿疹やかゆみ用の市販薬で対処できることがあります。「かゆみ」は「赤み」や「ブツブツ」と同様に皮膚の炎症によるものであることが多いため、元となる炎症を抑えるステロイド外用剤が効果的です。ステロイド外用剤は優れた抗炎症作用を持つため、炎症をすみやかに抑え、かゆみなどの症状をしずめます。
症状が重い場合は病院に
ただし、以下のようなケースでは、自己判断せず、医療機関を受診しましょう。
- 原因不明の湿疹が出て、症状が長引いている
- 症状が重く、悪化している
- 症状が出る範囲が広い、または広がっている
特に、思い当たる原因が無いのに、湿疹の症状が長引いている場合は、内科的な病気が関係していることもあります。
また、湿疹と間違いやすい病気に、乾癬などの皮膚病があります。乾癬は皮膚の炎症と、皮膚の一番外側にある角質層が堅くなる「角化症」が同時に起きる病気です。皮膚の炎症を抑えるだけでなく、角化症に対する治療も行わなくてはならないため、医師による診断治療が必要です。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。