脂漏性皮膚炎とは
- 脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)とは頭や生え際、顔面など、皮脂の分泌が盛んな部位にできる湿疹です。
- 患部は赤みがあり、やや黄色味を帯びた湿り気があるフケ、または乾燥したうろこ状のフケが出ます。
- ひどいとフケが固まって、かさぶたのようになることもあります。
- 新生児期から乳児期に見られる「乳児型」と、思春期以降の成人に見られる「成人型」があります。
脂漏性皮膚炎の原因
- 皮膚に常在しているマラセチアというカビ(真菌)の一種が脂漏性皮膚炎の発症に関わっているといわれています。
- 皮脂を栄養源とするマラセチアが皮膚で増殖すること自体が、皮膚の炎症を引き起こすと考えられています。
- マラセチアが、皮脂に含まれる成分「トリグリセド」を遊離脂肪酸へと分解し、その遊離脂肪酸による皮膚への刺激もまた、皮膚炎の原因になっていると考えられています。
- なぜマラセチアが異常に増殖するのか、根本的な原因はいまだ分かっていませんが、環境による皮脂成分・分泌量などの変化、ビタミンB2、B6などの代謝異常、入浴や洗顔の不足、ストレス、寝不足、ホルモンの乱れなどの要因が関連しているといわれています。
- 成人型の脂漏性皮膚炎は、思春期以降の男性によく見られますが、これは皮脂の分泌を促進する男性ホルモン(アンドロゲン)の影響が関係していると考えられています。
脂漏性皮膚炎の症状
- 頭皮や髪の生え際、眉毛、鼻のわき、耳のうしろ、わきの下、胸、股間部、膝の裏などによく見られます。これらの部位は、皮脂を分泌する脂腺が発達した部位で、脂漏部位といいます。
脂漏性皮膚炎の症例画像(鼻のわき)
脂漏性皮膚炎の症例画像(頭部)
症例画像を鮮明にする
※ボタンを押下することで症例画像が切り替わります。
- 痛みはなく、ほとんどの場合、かゆみもありませんが、軽微なかゆみを伴う場合もあります。
- 患部の皮膚が赤くなり、黄色味を帯びた脂っぽく湿り気のあるフケあるいは乾燥したうろこ状のフケがボロボロと出てきます。
- ひどいとフケやはがれた皮膚、浸出液が固まって、かさぶたのようなもので患部が覆われることもあります。
- 乳児型の脂漏性皮膚炎のほとんどは一過的なもので、正しいスキンケアを行っていれば、たいてい生後8~12か月ごろには自然治癒します。
- 思春期以降に見られる成人型の脂漏性皮膚炎の場合は、一度発症すると、よくなったり悪くなったりを繰り返し、多くは慢性的な経過をたどります。症状がひどくなると、自然治癒することはほぼないため、病院での適切な治療が必要です。
脂漏性皮膚炎の治療法
- 頭皮のかゆみやフケなどの症状は、シャンプーやリンスの洗い残しによるかぶれ(接触皮膚炎)でも発生しますが、いつまでたっても治らず、症状が続いている場合は、脂漏性皮膚炎である可能性があります。皮膚の赤みなどの炎症がなく、乾いたフケだけが出る場合は、粃糠疹(ひこうしん)、乾性脂漏(かんせいしろう)という、いわゆる「フケ症」ということもあります。その他アトピー性皮膚炎や別の種類のカビによって起きるカンジダ症など、似たような皮膚症状を呈する病気がいくつかあります。これらの見分けは難しく、病気に応じた専門の治療が必要ですので、思い当たる症状がある場合は、皮膚科を受診しましょう。ただし頭部に爪を立てたり、ごしごし洗いをしたり、フケをむしるなど機械的刺激で湿疹ができますので、そのような生活習慣を改めると脂漏性皮膚炎以外の頭部や顔面の湿疹はよくなることがあります。
- 脂漏性皮膚炎は、患部に炎症が起きている状態です。皮膚科では、一般的にステロイド外用剤を使って炎症を抑える治療を行います。症状によっては、カビの繁殖を抑える抗真菌外用剤を併用することもあります。
日常生活で気をつけること
皮膚を清潔に
- まずは、正しい洗顔、洗髪を行って、皮脂の溜まりやすい部位を清潔に保つことが大切です。日々の生活の中で、皮脂汚れを溜めないように、しっかりと対策しましょう。
- 洗顔、洗髪を行っても、なかなかコンディションが整わない時は、シャンプーや石鹸を変えてみるのもよいでしょう。油分を含む整髪料、シャンプー、リンスなどの使用はできるだけ避け、抗真菌薬を含んだシャンプー、リンス、石鹸に変えることが頭皮環境の改善に役立つことがあります。
生活習慣を見直す
- 日々の睡眠不足や過度なストレスは、皮膚症状の増悪因子になります。肌の調子が悪いと感じたら、まずは充分な睡眠を心がけましょう。気分転換できる時間を取るなどして、ストレスを溜めない生活を送ることも大切です。
- 入浴・洗髪時には、頭皮に爪を立てたり、皮膚をごしごしこすらず、泡でやさしく洗うようにしましょう。
- 暴飲暴食や偏った食生活も、皮膚症状を悪化させます。栄養バランスの整った、規則正しい食生活を心がけましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。