湿疹(皮膚炎)とは
- 皮膚の表面に起きる炎症をまとめて「湿疹」または「皮膚炎」と呼びます。
- 皮膚が赤くなり、ブツブツや水ぶくれができることもあり、強いかゆみが特徴です。
- 湿疹には、いくつかの種類があり、それぞれの原因にあったケアが必要です。
湿疹(皮膚炎)の原因
湿疹を引き起こす2つの要因
湿疹は、刺激の強い物質に触れる「外的要因」と、ひとりひとりの体質や体調などの「内的要因」が重なり合って起こります。
- 外的要因の代表例:薬剤・化学物質・アレルゲン・昆虫・金属・日光・ゴムによる締め付けや圧迫・カビ・細菌・気候変化など。
- 内的要因の代表例:アレルギー体質・アトピー素因・内臓疾患・肌のバリア機能低下・皮脂や汗の量など。
急性湿疹と慢性湿疹
湿疹の診断では、症状が続いている長さによって「急性湿疹」と「慢性湿疹」に分けて考えます。
「急性湿疹」は出始めてから数時間または数日以内の湿疹で、多くのケースでは早期の治療によって改善します。「急性湿疹」は自然に良くなることもありますが、治療しないで放置していると「慢性湿疹」になります。
「慢性湿疹」になると患部が堅く、ゴワゴワするようになります。どちらも治療方法は基本的に同じですが、慢性湿疹の方が完治までに時間がかかります。
湿疹、かぶれ、蕁麻疹のちがい
- 「湿疹」とは皮膚に起きる炎症のことで、「皮膚炎」と同じ意味です。
- 「湿疹」にはさまざまな種類がありますが、よく見られるのが「かぶれ」です。
- 「かぶれ(接触皮膚炎)」は、肌に原因物質が直接触れることで起きます。赤み以外にもポツポツや水ぶくれができることもあり、症状が長引きます。正常な皮膚と患部との境目がくっきりしているのも特徴です。これは、原因物質が触れていた部位だけが反応していることを意味しています。かぶれの原因が分からないと湿疹とされることが多いです。
- 「蕁麻疹(じんましん)」は内科的な病気や食べ物など、身体の内側で起きたトラブルが皮膚に現れるものです。楕円形のぷっくりした盛り上がりが突然現れ、数十分~24時間以内に痕を残さず消えるのが特徴です。原因は分からないことの方が多いといわれています。
湿疹(皮膚炎)の症状
湿疹の症状の出方はさまざま
湿疹の症状は強いかゆみと皮膚表面の変化です。
見た目の変化としては、赤みだけの場合もあれば、ブツブツができることもあり、多様な経過をたどります。
上の図は、 “湿疹三角”と呼ばれ、湿疹が進行する過程を表しています。
湿疹の経過
湿疹の症状の強さや経過はさまざまですが、その多くは“湿疹三角”に沿って進行します。
1.紅斑(赤み)…皮膚に炎症が起き、毛細血管が拡張する
2.滲出性丘疹(ブツブツ)…滲出液が皮下に浸み出て、ブツブツした膨らみができる
3.小水疱(水ぶくれ)…さらに滲出液が出る
4.膿疱(膿を持つ水ぶくれ)…炎症が進んで、水ぶくれの中に白くドロッとした膿がたまることもある
5.びらん(ただれ・ジュクジュク)…水ぶくれが破れる
6.痂皮(かさぶた)…滲出液が固まってかさぶたをつくる
7.落屑(皮膚・かさぶたの剥がれ)…肌のターンオーバーによって、変化した肌やかさぶたが剥がれ落ちる
患部を掻き続けたり、こすったりすることで、色素が沈着したり、皮膚が分厚くなることもあります(苔癬化)。
かぶれ(接触皮膚炎)
特定の物質に肌が触れることで、赤みやブツブツ、水ぶくれができ、強いかゆみや痛みを感じる。化学物質による刺激が原因で起きる「刺激性接触皮膚炎」と、アレルギー反応によって起きる「アレルギー性接触皮膚炎」がある。原因物質が触れていた部分だけに症状が出る。
手湿疹(主婦湿疹)
手にできる湿疹。主婦や美容師など、水や洗剤をよく使う人がなりやすい。皮膚がカサカサしてひび割れを起こす「乾燥型」と、小さなブツブツや水ぶくれができる「湿潤型」に分類されることもある。
アトピー性皮膚炎
強いかゆみを伴うジュクジュクした湿疹が繰り返し現れる。顔、耳、首、わきの下、ひじ、ひざなどの部位に、左右対称にでやすいのが特徴。アトピー素因が関係しているので、遺伝性があり、気管支喘息などを合併していることがある。肌のバリア機能が低下し、乾燥していることが多い。乳幼児期に発症し、8割の患者は20歳前に自然に軽快することが多い。
皮脂欠乏性湿疹
肌の乾燥によってかゆみを感じ、掻き続けることで湿疹ができてしまう。すね、太もも、胴体など、もともと皮脂の分泌が少ない部位に起きやすい。高齢者に多く、秋から冬にかけて、空気の乾燥する季節に発症しやすい。
脂漏性皮膚炎
頭や髪の毛の生え際、顔面など、皮脂の分泌の盛んな部位から、乾燥したうろこ状のフケまたは湿り気があるフケが出る。思春期以降~中高年の男性に比較的多い。気候の変化やストレスによって肌の常在菌のバランスが崩れ、マラセチアというカビの一種が増殖することで起きると考えられている。
汗疱(かんぽう)
手のひらにかゆみのある1~2mm大の小さなポツポツが生じ、その後皮が剝け、数か月以内に自然に治るものを汗疱と呼ぶ。年に何回か再発を繰り返すことが多い。
異汗性湿疹
手湿疹と同意語として使用されることもあるが、汗疱を基盤として生じた手湿疹を異汗性湿疹ということが多い。足の裏にも生じた場合は掌蹠膿胞症と呼ばれ、湿疹ではなく、乾癬の仲間である。
貨幣状湿疹
腕や脚、胴体などに赤いコイン状の湿疹と炎症が起きる。患部はカサカサし、小さな水ぶくれやかさぶたができて強いかゆみがあるのが特徴。虫刺されや乾燥湿疹を掻き壊すことによって起きるが、そのほとんどは不適切な治療による。さらに悪化すると、自家感作性皮膚炎に進行することがある。
湿疹(皮膚炎)の対策・予防法
湿疹を予防する3つの方法
①肌を清潔に保つ
肌についた汚れや汗を放置すると、肌に刺激を与え、湿疹を引き起こすことがあります。こまめに洗い流して清潔な肌をキープしましょう。但しゴシゴシ洗いは厳禁です。
②日々のスキンケアで肌のバリア機能を守る
健康な肌は、「肌のバリア機能」によって、体外の異物の侵入を防いでいます。このバリア機能を守るためには、紫外線を避ける、ワセリンなどで保湿するなど、日々のスキンケアが大切です。
③肌への刺激を避ける
湿疹の原因として思い当たる物質があれば、それらを避けることが有効です。手湿疹を繰り返す場合は、不必要な手洗いや水仕事を避けてください。
湿疹が出てしまったら…
患部を掻きむしると、症状が悪化するので、むやみに掻かないようにします。
湿疹の治療には、塗り薬(ステロイド)が有効です。
原因がはっきりしていて、症状が軽い場合は、湿疹・かぶれ用の市販薬でのセルフケアも可能です。
ただし、原因不明の湿疹が長引く時は、病院を受診することをおすすめします。自分では思い当たるきっかけが分からなくても、パッチテストによって原因が特定できることがあるからです。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。