誰もが経験する虫刺され。
ほとんどの虫刺されは、1~2日で自然に治るものですが、症状がひどい場合や、刺した虫の種類によっては水ぶくれができることがあります。
今回は、虫刺されによって水ぶくれができる原因や、水ぶくれができてしまった時の対処法について解説します。
水ぶくれの原因
水ぶくれは、やけどや靴ずれ、細菌感染やウイルス感染などによって、皮膚の正常細胞が損傷を受け、組織から染み出た体液やタンパク質などが皮下に溜まってできたもので、医学的には「水疱(すいほう)」といいます。
この水ぶくれは、虫刺されによっても起こることがあります。
例えば、有毒な虫に刺された場合、虫の持つ毒液による化学的刺激によって皮膚の細胞が傷つけられると、熱いものに触れて「やけど」をした時と同じように、水ぶくれができることがあります。
あるいは、吸血性の虫が、吸血時に注入した唾液成分などに対するアレルギー反応、つまり体内に侵入した異物に対する防御反応が起きた結果、その残骸である液体が皮下に溜まって、水ぶくれをつくることもあります。
虫刺されによって水ぶくれができるかどうかは、虫の種類も影響しますが、基本的には個人の体質による違いが大きいと考えられています。たとえ同じ虫に刺されたとしても、症状の出方には個人差があり、赤みやかゆみだけで治る人もいれば、水ぶくれができやすい人もいます。
ブユによる虫刺され
チャドクガ(毛虫)による虫刺され
アオカミキリモドキによる虫刺され
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子どもの場合
個人差はあるものの、子どもの場合は、大人に比べて虫刺されによる皮膚症状が強く出る傾向があります。ありふれた虫による虫刺されでも、水ぶくれができてしまうことがあるので、虫に刺されたら、患部の状態をよく観察し、悪化しないように早めの対処を心がけましょう。
水ぶくれができやすい虫刺され
普段は、虫刺されによって水ぶくれができたことがないという人であっても、「ネコノミ」や「やけど虫」に刺された場合は、水ぶくれができることがあるので注意しましょう。
ネコノミとはネコやイヌに寄生して吸血する体長2~3mm程度のノミです。室内飼いしているペットや野外にいるノラネコから飛び移って、人を刺すことがあります。野外で刺されたケースでは、ひざから下に症状が集中する特徴がありますが、室内で刺されたケースでは、上半身にも症状が出ることがあります。
人によって症状の出方には違いがあるものの、刺された1~2日後に、激しいかゆみと赤みを伴うブツブツができ、その後水ぶくれになります。
水ぶくれは、激しいアレルギー反応によってできるもので、ネコやイヌに接触する機会が少なく、刺された経験がない人ほど、症状が強く出ます。
やけど虫とは、正式名称「アオバアリガタハネカクシ」という体長6~7mm程度で、黒とオレンジの毒々しい縞模様が特徴の甲虫です。日本中どこにでもいて、水辺や田んぼ、湿った草地を好みます。やけど虫をうっかり素手で触ると、有毒物質「ペデリン」を含んだ体液が皮膚に付着し、その化学的刺激によって皮膚炎が起き、まるでやけどをした時のような水ぶくれができます。
対策・予防法
虫刺されによって水ぶくれができてしまった場合に、まず大切なことは、掻きむしって水ぶくれを破らないことです。かゆみにまかせて患部を掻いて水ぶくれを破ってしまうと、そこから細菌感染を起こして化膿したり、痕が残ったりすることがあるので注意しましょう。
また、水ぶくれができるということは、患部に強い炎症が起きているということです。炎症をそのままにしていると、かゆみがひどくなり、症状が長引いてしまうので、充分な強さのステロイド外用剤を使って、かゆみ、赤みの元である炎症をしっかりと抑える治療が必要です。
子どもの場合も、対処法は大人と同じですが、子どもは掻くのを我慢することが難しく、水ぶくれを破ったり、掻き壊したりしてしまうことも少なくありません。掻き壊して化膿すると、伝染性膿痂疹(とびひ)という感染症を引き起こすこともあります。患部が悪化して治りにくくなる前に、ステロイド外用剤を上手に活用して、虫刺されを治しましょう。
ただし、市販のステロイド外用剤を5~6日使用しても改善が見られない場合は、使用を中止し、医療機関を受診してください。また、水ぶくれが急に大きくなった時や、患部の痛みが強い時も、自己判断せず、医療機関を受診しましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。