やけど虫とは
- 「やけど虫」とは、正式には「アオバアリガタハネカクシ」という名前の甲虫(こうちゅう)の俗称です。
- 体長7mm程度のとても小さい虫です。頭・後胸・腹・背面・羽が黒色、前胸と中胸がオレンジ色というツートンカラーの特徴的な姿をしています。
- 背中にやや青みがかった硬くて黒色の外羽(青翅:あおば)を持っていること、アリによく似た細長い体つきをしていること、外羽の中に大きな羽をたたみ隠している(翅隠し:はねかくし)ことから、「アオバアリガタハネカクシ」という名前がついています。
- 「ペデリン」という有毒物質を含んだ体液を持っています。攻撃性はないものの、誤って人や動物が触れると有毒の体液が出て皮膚に付着し、まるでやけどをしたような激しい痛みと発疹ができることから、一般的には「やけど虫」と呼ばれています。
- ペデリンの毒性は強く、やけど虫1匹分のペデリンが、ハツカネズミのおよそ1匹の致死量に相当するといわれています。
- やけど虫は日本全国に広く分布しています。湿気のある場所を好むため、田んぼや湖、池、沼付近、川原、落ち葉の中、石の下などに生息しています。
- 基本的に野外で繁殖する虫です。しかし、夜間は光に集まる習性があるため、光を目指して家の中に侵入して被害を引き起こすこともあります。
- やけど虫は春から秋にかけて活動し、中でも6~8月にかけて行動が活発になります。
- 夜間に自転車やバイクに乗っている時、顔にやけど虫が止まったり、当たったりして体液に触れることで被害を受けることがあります。
やけど虫に触ると現れる症状
- やけど虫による被害は、ハチのように刺すことで起きるわけではありません。やけど虫を故意に触ったり、手で払いのけたりした時に、やけど虫の有毒な体液が糸のように伸びて皮膚に付着し、皮膚炎が起きます。
- やけど虫の体液に触れると数時間から半日ほど経過してから、赤み(紅斑:こうはん)を伴う「線状皮膚炎」、いわゆる「みみずばれ」が出現します。
- やけど虫の毒による皮膚の損傷は真皮層にまで達するため、ヒリヒリした灼熱感や強い痛みは徐々に強くなり、2~3日経つと患部に膿の入った水ぶくれ(膿疱:のうほう)ができることもあります。また、1~2週間後にはかさぶた(痂疲:かひ)ができる場合もあります。
- やけど虫に触れてから1カ月程度でかさぶたがはがれて治癒しますが、赤褐色の色素沈着が残ることもあります。
やけど虫に触った時の対処法
- やけど虫の体液には強力な有毒物質が含まれているため、触れてしまった時はこすらずにすぐに水道水で洗い流しましょう。
- 洗い流す前に手や布でこすると毒液が周囲に広がってしまうため、危険です。特に、やけど虫の体液が付着した手指で目をこすってしまうと、毒の作用で結膜炎や角膜潰瘍(かくまくかいよう)を引き起こすリスクがあるため、絶対にやめましょう。
- やけど虫の体液に触れた患部にヒリヒリした痛みや赤み、はれ、水ぶくれなどの炎症がある場合は充分な強さの市販のステロイド外用剤を塗って治療します。大人の場合はストロングランク、子どもの場合はマイルドランクのステロイド外用剤を使用しましょう。
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医療機関を受診する目安
- やけど虫に触れた後、我慢できないほどの痛みやかゆみが発生した場合は、皮膚科を受診し、医師に相談してください。
- やけど虫による皮膚炎が広範囲に及んでいる場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。
- ステロイド外用剤を5~6日使用しても症状が改善しない、または悪化している場合はステロイド外用剤の使用を中止し、医療機関を受診してください。
- 万が一、やけど虫の体液が目に入った場合は角膜が傷つき、失明してしまう危険があるため、すぐに水道水で洗い流した後、眼科を受診して治療を受けましょう。
やけど虫の対策
- やけど虫による被害を防ぐためには、まずやけど虫に近づかないことと、触らないことが大切です。野外でやけど虫を見つけても触ったり、つぶしたりせず、その場を離れましょう。
- 黒とオレンジの目立つ色をしているので、子どもが興味を持って触ってしまうことがあります。図鑑や写真を見せ、触ってはいけない虫であることを教えてあげましょう。
- やけど虫は光に集まってくる習性があるため、窓を開けたまま寝たり、キャンプの際にテントを開けたままにしたりしていると光を目指してやけど虫が侵入します。網戸やネット、忌避剤などを活用してやけど虫の侵入を防ぎましょう。
- 万が一、屋内にやけど虫がいた場合は捕まえようとせず、殺虫剤で駆除しましょう。
- やけど虫は死骸や卵、幼虫もすべて有毒です。誤って触れることがないように注意しましょう。
- やけど虫の活動が活発になる6~8月頃に、野山や湖、川原、田んぼなどに出かける時はやけど虫に気づかずに触れてしまうことがあります。夏場でも長袖・長ズボン、帽子などを着用し、首回りはタオルで覆うなどして皮膚の露出を控えましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。