「手荒れ」といえば、空気が乾燥する冬場に多く、水仕事が多い主婦や調理師、美容師などに起こりやすい皮膚トラブルのイメージがあるかと思います。しかし、最近では感染症対策の徹底により、手洗いやアルコール消毒の回数が増えたことで手荒れに悩む人が増えています。今や手荒れは、季節や職業、年齢を問わず、誰にでも起こりうる身近な皮膚トラブルになりつつあります。
今回は、手荒れ、手湿疹のメカニズムや原因について解説するとともに、その対処法や予防法をお伝えします。
手荒れ、手湿疹とは
水仕事による手湿疹の症例画像
洗剤かぶれの症例画像
症例画像を鮮明にする
※ボタンを押下することで症例画像が切り替わります。
手荒れとは、一般的に手指の皮膚が乾燥することで柔軟性や滑らかさを失い、カサカサやかゆみなどの不快な症状を伴う状態のことを指します。
手荒れ、手湿疹の症状
初めは、手指のかさつきや、手洗い・入浴後のつっぱりなどの違和感といった、いわゆる乾燥肌の症状から始まります。次第に、利き手の指先の皮膚から乾燥と角化(皮膚が異常に厚く堅くなること)が進み、やがて手のひらを含む、手全体に「かさつき」や「ごわつき」などの変化が広がります。
手荒れを放置していると、「かさつき」や「ごわつき」に加え、指先や手の甲の部分を中心に、皮膚の表面がめくれたり、「亀裂(ひび割れ)」が生じたりするようになります。皮膚に生じた亀裂が深い場合は、毛細血管から血がにじみ出て、いわゆる「あかぎれ」と呼ばれる状態になり、手洗いの際の水や石鹸、洗剤成分、アルコール消毒剤がしみて、強い痛みを感じるようになります。
さらに悪化すると、手の皮膚に赤みやかゆみを伴うブツブツや、水ぶくれ(水疱)、ジュクジュクした傷などが混在した「手湿疹」という皮膚の病気へと進行します。手湿疹になると、皮膚の炎症によって、赤み、かゆみ、痛み、はれなどの症状が現れます。
手荒れ、手湿疹のメカニズムと原因
手荒れ、手湿疹のメカニズム
本来、健康な手指の皮膚は適度な水分を含んでみずみずしく、弾力に富んでいます。これは、皮膚表面の角層(角質層)と、それを覆う皮脂のコーティングが、皮膚の水分を閉じ込め、みずみずしさを保っているからです。この働きは、「皮膚のバリア機能」と呼ばれ、皮膚の潤いを保つだけでなく、細菌やアレルゲンなどの外敵が皮膚の内部に侵入するのを防ぐ役割も担っています。
しかし、空気の乾燥や気温の低下、手洗いや水仕事などによって手指の皮脂が取り除かれるとバリア機能の働きが低下し、皮膚内部から水分が逃げ出して乾燥肌の状態になります。従って冬には手荒れが起きやすくなり、春から夏にかけては、症状が治まることが多いです。バリア機能が低下して乾燥肌になると、外的刺激によるダメージも受けやすくなります。そのため、手洗いや水仕事を続けていると、それが刺激になり「かさつき」や「ごわつき」などの不快な症状を伴う「手荒れ」へ、さらにかゆみやブツブツなど湿疹が加わると「手湿疹」へと進行します。
手荒れ、手湿疹の原因
手洗いや水仕事の多い職業の人、よく紙や布類に触れる機会の多い人は手荒れしやすい傾向があります。近年では、感染症対策としての手指のアルコール消毒も、皮脂を溶かしてしまうため、皮膚のバリア機能を低下させ、手荒れの原因になることがあります。手荒れは、皮膚の乾燥がベースとなって発症する皮膚トラブルなので、空気が乾燥する秋~冬にかけて症状が悪化します。このように手荒れの多くは、手洗い習慣や水仕事などに伴う「外的要因」によって起こることが原因です。
しかし、アトピー素因や体質などの「内的要因」によって手荒れが起きるケースもあります。一口に手荒れといっても、手指のかさつきや乾燥などの軽度なものから、ひびやあかぎれを伴うもの、さらにそれらが悪化して、炎症を伴う手湿疹にまで進行したものなど、症状の程度はさまざまです。そのため、進行度合いに合った対処方法でケアすることが大切です。
手荒れ、手湿疹と間違えられやすい疾患
手指の皮膚トラブルには、手荒れ、手湿疹に症状が似ているものがあります。間違えられやすい疾患について解説します。
汗疱(かんぽう)
汗疱とは、手のひらや足の裏などに、中が透き通った1~2mm大の小さな水ぶくれがたくさんできる皮膚の病気です。原因は不明です。軽度の場合は、徐々に水ぶくれが吸収された後、古い皮が剥がれ落ちて自然治癒します。しかし、かゆみを伴い、再発を繰り返す場合もあります。
異汗性湿疹(いかんせいしっしん)
汗疱の患部に薬剤、物理的な摩擦などの刺激が加わり、湿疹になったものです。炎症による強いかゆみと痛みを伴うブツブツやただれが、指の側面や手の甲、足の甲などにも広がります。
手白癬(てはくせん)
白癬とは、皮膚糸状菌の一種である白癬菌という「カビ(真菌)」が皮膚に寄生することで起こる感染症で、一般的に「水虫」と呼ばれています。手白癬は、手に白癬菌が寄生したものです。手のひらにかゆみのある小さな水疱がたくさんできたり、皮膚が分厚くなったりして、皮がむけます。もともと足白癬(足の水虫)を持っている人がかかりやすい疾患です。
接触皮膚炎
金属などの特定の原因物質(アレルゲン)に対するアレルギー反応が主体となって皮膚症状が起きるものです。原因物質に触れたりすることで皮膚に赤みやブツブツ、かゆみなどの症状が現れます。手湿疹も一種の接触皮膚炎です。
まずはハンドクリームで乾燥対策を!予防・ケア方法
手荒れのケアは保湿が基本です。まずは、ハンドクリームや保湿剤などをこまめに塗って、乾燥してカサカサした皮膚に潤いを与え、皮膚のバリア機能の回復を促します。手洗いや水仕事の後にハンドクリームを塗る習慣を身につけましょう。
水回りにハンドクリームを置いておく、外出時は携帯用のハンドクリームを持ち歩くなどして、塗り忘れのないようにすることが大切です。ハンドクリームによる乾燥対策は、手荒れの予防にも有効なので、乾燥の気になる季節には保湿ケアを取り入れましょう。
手荒れの発症や進行を予防するために、手洗いや水仕事の際も、できるだけ短時間で済ませるようにしましょう。また、食器を洗う時は、ゴム手袋などを使用し、皮膚への負担を減らすことも大切です。ただしゴム手袋でかぶれることがあるので、使用するゴム手袋はかぶれることがないものを使用して下さい。冬場の外出時には、手袋をつけると手荒れ予防に効果的です。手袋をはめて、冷たく乾燥した外気から手指を守りましょう。
手荒れ、手湿疹の対処法
予防・初期
ハンドクリームを用いた保湿ケアは、手荒れの進行度合いに関わらず、共通した基本ケアになります。手荒れを予防するために、普段から保湿ケアを行いましょう。
すでに手荒れになってしまった場合は、手荒れの進行具合に合った対処方法でケアをしましょう。皮膚のかさつき、ごわつきなどが気になる初期の段階では、ハンドクリームやワセリンなどの保湿剤を塗って、皮膚を保護し、バリア機能の回復を促します。
悪化期
手荒れが悪化して、「手湿疹」へと移行し、炎症による赤みやかゆみ、ジュクジュクなどの症状がある場合は、ステロイド外用剤を使って炎症を抑える治療が必要です。特に患部を保護できる軟膏がおすすめです。患部を掻き壊すと、症状が悪化し、細菌感染のリスクも高まるため、掻かないようにしましょう。傷ができて細菌感染が心配な時は、抗生物質が入ったステロイド外用剤を使用しましょう。
ステロイド外用剤を使用する際の注意点
手荒れが進行して赤みやかゆみを伴う手湿疹になると保湿剤では対処できません。炎症を抑える必要があるためステロイド外用剤がおすすめです。ステロイド外用剤は、成人であればストロングランクの充分な強さのステロイド外用剤を使用し、炎症のある患部にのみに塗るようにしましょう。ステロイド外用剤を長期間にわたって使用する、炎症が起きていない部位に対してステロイド外用剤を予防的に用いるなどは避けてください。
ステロイド外用剤を5~6日間使用しても、症状が改善しない、または悪化している場合は、使用を中止し、医療機関を受診してください。
また、もともとアトピーを持っている人は、手指の保湿ケアや治療だけでなく、まず大本の原因であるアトピー性皮膚炎をしっかりと治療することが大切です。皮膚科専門医に相談し、適切な治療を受けるようにしましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。