赤ちゃんから大人まで、誰にでも起こりうる日常的な皮膚トラブルといえば「肌荒れ」。肌荒れは、さまざまな原因で皮膚本来の潤いと滑らかさが失われて、カサカサやツッパリ感、ブツブツができるなど、不快な症状が現れます。
今回は、「肌荒れ」の代表的な症状や原因、肌荒れの正しい対処法・予防法を解説します。
肌荒れの代表的な症状
「肌荒れ」とは、健康的な皮膚が持つ潤いや滑らかさが失われた状態のことを指しますが、その症状の出方や原因はさまざまです。肌荒れの代表的な症状は、次のような状態が挙げられます。
皮膚の乾燥・かさつき・ごわつき
皮膚をコーティングしている「皮脂」が欠乏し、皮膚本来のみずみずしさや弾力が失われた状態です。早期の段階では、皮膚の一部にかさつきやつっぱりなどの違和感がある程度ですが、乾燥が進むと皮膚表面の見た目も変化し、細かいシワや亀裂ができてゴワゴワしたり、フケのような白い粉をふいたりするようになります。
このように皮膚の乾燥が進んで、みずみずしさや弾力を失った状態を、医学的には「乾皮症(かんぴしょう)」と呼びます。一般的には、「乾燥肌」や「ドライスキン」と呼ぶこともあります。
毛穴の凹凸
毛穴に皮脂や角質などの老廃物が詰まったり、毛穴自体が拡大したりして皮膚に凹凸ができることで、見た目の滑らかさやスベスベとした触感が失われる状態です。本来、健康な皮膚では、毛穴はキュッと引き締まっていて肉眼ではほとんどみえませんが、毛穴に余分な皮脂や角質が蓄積することで次第に毛穴が広がり、目立つようになります。おでこや頬、鼻、顎など、皮脂の分泌が多い場所によくみられます。
肌荒れの原因
肌荒れの根本的な原因は、「皮膚のバリア機能」の低下です。皮膚のバリア機能とは、皮脂膜でコーティングされた角層(角質層)がバリアとして働くことで、皮膚の内部の水分を外に逃がさないようにし、適度な潤いと滑らかさを保つ働きのことです。私たちの皮膚は、このバリア機能のおかげでみずみずしく弾力のある皮膚を保つとともに、微生物やアレルゲンなどの異物が皮膚の中に侵入するのを防ぐことができます。
皮膚のバリア機能を低下させる要因
- ターンオーバーの乱れ
健康な皮膚は、新しい細胞へと「ターンオーバー(生まれ変わり)」を繰り返すことでバリア機能を維持しています。しかし、不規則な生活やストレスによってターンオーバーのリズムが乱れると、正常なバリア機能が維持できなくなります。 - 紫外線の影響
紫外線を浴びることによって皮膚表面の角層がダメージを受け、バリア機能が低下します。また、洗顔後や入浴後は皮膚が乾燥しやすくなるため、保湿ケアを怠ることで、バリア機能の低下につながります。 - 誤ったスキンケア
タオルによる過剰な摩擦刺激や洗浄成分による洗いすぎによって、バリア機能が低下します。 - 加齢
年齢を重ねると、皮脂や潤い成分(NMF「天然保湿因子」)が失われ、バリア機能が低下しやすくなります。 - エアコンや外気による乾燥
冬場の乾燥した外気や、年間を通してのエアコン使用による乾燥した環境にさらされることによって皮膚表面の乾燥が進み、バリア機能が低下しやすくなります。 - ホルモンバランスの乱れ
性周期に伴う女性ホルモンの変化やストレスに伴うホルモンの乱れによって、角層が厚くなったり、皮脂の分泌量が変化したりして、バリア機能の低下を招くことがあります。
花粉による季節性の肌荒れ
花粉に対してアレルギーを持つ人の場合は、花粉の影響による季節性の肌荒れが起きることがあります。アレルゲンとなる花粉の種類は人によってさまざまです。代表的なものとしては、スギやヒノキの花粉(2~4月が飛散のピーク)や、カバノキ類(1~6月頃まで飛散)、イネ科(3~6月、7~10月に飛散)、ブタクサやヨモギ(9~10月に飛散)などがよく知られています。
皮膚と花粉が直接触れ合うことでアレルギー反応が起きるため、花粉による肌荒れは首や顔など、外気にさらされて花粉が付着しやすい部位に現れる特徴があります。また、アレルゲンとなる花粉が飛散している時期にだけ発症し、飛散が終われば症状が治まるのも特徴です。
皮膚のターンオーバーの乱れ、紫外線、誤ったスキンケア、花粉の影響などによって、皮脂の欠乏、乾燥などの刺激を受けると、皮脂膜でコーティングされた角層(角質層)が剥がれ落ち、角層に隙間ができてバリア機能が低下します。バリア機能が低下すると、皮膚内部の水分が外に逃げ出してしまい、皮膚がみずみずしさと弾力を失って乾燥気味になります。この状態では、皮膚の外部から受ける刺激に対して無防備な状態になるため、少しの刺激を受けただけでさまざまな皮膚トラブルを発症しやすくなります。
肌荒れは、誰にでも起こりうるものですが、もともと皮膚の薄い乳幼児や、皮脂の分泌が低下しがちな高齢者、アトピー性皮膚炎を持つ人は、バリア機能が脆弱なため、特に肌荒れを起こしやすいと考えられています。
感染症対策による肌荒れ
新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、日々の生活に浸透した感染症対策の影響による肌荒れが増えています。例えば、1日の大半をマスク着用で生活することが当たり前になったことで、口まわりやフェイスラインの肌荒れに悩むケースも見られます。長時間マスクをつけたまま過ごすことによる「摩擦」と「蒸れ」が皮膚に大きな負担をかけ、肌荒れのきっかけになります。
マスクは呼気が外に漏れないように作られているため、呼気でいっぱいのマスクの中は湿度が上がり、常時皮膚が蒸れた状態になります。長時間マスクの中が蒸れていると、皮膚表面の角質層はふやけて、皮膚のバリア機能が著しく低下します。さらに、マスクによる摩擦刺激が加わり、ふやけた角層が剥がれ落ちてさらにバリア機能がダメージを受け、やがて乾燥肌や肌荒れへと進行していきます。
石鹸・ハンドソープを使った手洗いやアルコール消毒は、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどのエンベロープ(脂質の外膜)を持つウイルスを無効化するのに有効です。しかし、頻繁に行うことで皮膚表面の皮脂膜まで洗い流してしまい、皮膚のバリア機能を低下させます。そのため、感染症対策において重要視されている手洗いやアルコール消毒をこまめに行うことによって、手指の乾燥や手荒れを引き起こします。
肌荒れと湿疹の症状の違い
肌荒れの症状は、主に健康的な皮膚が持つ潤いや滑らかさが失われた状態です。症状の出方に個人差はありますが、皮膚のかさつき、つっぱりなどの違和感から、皮膚が弾力を失ってゴワゴワと厚くなる、白い粉をふく、毛穴の凹凸が目立つなどさまざまな形態に変化します。
一方、上記に加えて、皮膚の赤み、強いかゆみ、ほてり、赤みのあるブツブツなどの症状がある場合は「患部に炎症が起きている」サインです。このような炎症を伴う皮膚症状を総じて「湿疹」と呼び、その背景には何らかの炎症性の皮膚疾患が存在しています。
つまり、「肌荒れ」は炎症を伴わない皮膚の変化であるのに対し、「湿疹」は炎症を伴う皮膚の変化と考えられます。肌荒れと湿疹とでは対処法が異なるため、それぞれにあった対処法を行いましょう。
肌荒れと関連のある皮膚疾患
皮膚に赤みやブツブツ、強いかゆみ、ほてりなどの皮膚トラブルが出ている時は、何らかの原因によって皮膚に炎症が起きているというサインです。肌荒れは進行すると、炎症を伴う皮膚疾患に発展する場合があります。肌荒れと関連のある皮膚疾患について代表的なものは以下になります。
接触皮膚炎(せっしょくひふえん)
接触皮膚炎は「かぶれ」とも呼ばれます。化粧品やボディケア用品に含まれる薬剤、金属による刺激に皮膚が負けることで、炎症が起きます。原因物質に触れていた箇所にくっきりと症状が出現するのが特徴で、赤みやかゆみ、ほてり、ブツブツなどの症状が現れます。接触皮膚炎には、原因物質の刺激によって誰にでも起きる「刺激性接触皮膚炎」と、アレルギー体質が関係する「アレルギー性接触皮膚炎」があります。
尋常性ざ瘡(じんじょうせいざそう)
いわゆる「ニキビ」のことで、「吹き出物」とも呼ばれます。皮脂の分泌過多と毛穴の詰まりによって毛穴に皮脂が溜まり、その中でアクネ菌が増殖することで炎症が起きます。初めは白っぽいブツブツであったものが、炎症がひどくなると芯のある赤いブツブツ、膿の溜まったブツブツになります。尋常性ざ瘡は思春期にもっとも多く、日本人の90%以上が一度は経験しているといわれています。
アトピー性皮膚炎
良くなったり悪くなったりを繰り返す、かゆみを生じる湿疹が皮膚にできる慢性の病気です。アトピー性皮膚炎の皮膚は乾燥しているのが特徴で、赤いブツブツ(発疹)ができ、掻き壊すと患部がジュクジュクしてかさぶたができたり、皮膚の表面がゴワゴワと分厚くなったりします。患者の多くはアトピー素因(アレルギーの既往歴あるいは家族歴、抗体を産生しやすい体質)を持っており、アレルギーやさまざまな刺激に対する反応などの因子が複合的に絡み合って発症すると考えられています。たいてい乳幼児期に発症しますが、大人になってから発症したり、悪化したりするケースもあります。
肌荒れの対処法
肌荒れに関しては、症状の度合いに合わせたケアが必要です。早めのケアで健康な皮膚を取り戻しましょう。
症状が軽度の場合
赤みやかゆみなどの炎症はないが、皮膚が乾燥してカサカサの状態の時は、保湿剤を使って皮膚に水分を与え、表皮を保護しながら皮膚のバリア機能の回復を促します。
症状が中等度の場合
乾燥に伴うムズムズや皮膚がうっすら赤くなりかけているなど、軽い炎症が起きている場合は保湿剤による保湿ケアに加え、炎症を抑えるための治療を行います。炎症のある部分に対しては、市販のステロイド外用剤を塗ってすみやかに炎症を抑えましょう。
ただし、ニキビの場合はステロイド外用剤を使うと症状が悪化してしまうため、ニキビのような症状がある部分にはステロイド外用剤を使用しないでください。
症状が重度の場合
強いかゆみや赤みがある場合はすでに「湿疹」に移行しているため、市販のステロイド外用剤を塗って炎症を抑える治療を行いましょう。我慢できないようなかゆみがある時、ステロイド外用剤を5~6日使用しても症状が良くならない、または悪化している時は使用を中止し、医療機関を受診してください。また、炎症のある範囲が手のひら2~3枚分を越える広範囲に広がっている場合も自分で治療することはできないので、医療機関を受診しましょう。
肌荒れの予防法
肌荒れを予防するには、日々の生活で皮膚のバリア機能を高める習慣を身につけることです。まずは正しいスキンケア方法から行いましょう。
正しいスキンケア方法
入浴や洗顔に使うボディソープ・石鹸は、洗浄力のおだやかなものを選びます。泡で皮膚を包むようにやさしく洗い、皮膚への負担を軽減します。入浴や洗顔の後は、保湿剤を塗り、皮膚の内部に潤いを閉じ込めてバリア機能を保護しましょう。
生活習慣の見直し
正しい睡眠リズムとバランスのいい食事を心がけ、身体の内側から皮膚のバリア機能を強化することも大切です。皮膚の修復・再生は主に眠っている間に行われるため、睡眠不足が続くと皮膚の細胞の修復ができず、皮膚のバリア機能が低下します。1日あたり6~8時間を目安に、心地よい睡眠リズムを身につけましょう。日中に適度な運動を取り入れると寝つきが良くなり、ストレス解消も期待できます。
食事はバランスのよい食事を1日3食、しっかりと取りましょう。特に、皮膚の細胞の修復には、タンパク質やビタミン、ミネラル類の栄養素が欠かせません。肉や魚などを使った主菜、野菜を中心とした副菜を食べましょう。その他、ヨーグルトや味噌、漬物などの発酵食品は腸内環境を整え、皮膚の健康維持に役立ちます。これらを日々の食事に取り入れ、身体の内側から皮膚を健康に保ちましょう。
アトピー性皮膚炎を持つ人の場合は上記の予防法に加えて、アトピー性皮膚炎の症状をコントロールすることが重要事項です。皮膚の状態に変化を感じたら医療機関を受診し、医師の指導を受けましょう。
手荒れ対策
手指のウイルス対策は、アルコール消毒ではなく石鹸による手洗いで実施するほうが皮膚への負担を軽減できます。新型コロナウイルスやインフルエンザなどの病原体を無効化する効果は、石鹸もアルコールも同等であることが科学的に検証済みであり、「石鹸による手洗い」のみで充分な効果があることがわかっています。それに対し、アルコール消毒は、油分を除去する力が強く、皮膚への負担が大きいというデメリットがあります。
厚生労働省や国立感染症研究所のウェブサイトでも、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザウイルスなどに対しては「石鹸による手洗いの後、アルコール消毒は不要」であり、「流水で手洗いができない場合には、アルコール消毒を使用」と情報発信しています。家庭内や職場などの水が使える場面ではアルコール消毒は使わずに、石鹸による手洗いをしてください。また、手洗いやアルコール消毒をした後はこまめに保湿ケアをして、感染症対策を続けましょう。
監修
天下茶屋あみ皮フ科クリニック 院長
山田貴博 先生
2010年名古屋市立大学医学部卒。NTT西日本大阪病院(現・第二大阪警察病院)にて初期臨床研修後、大阪大学大学院医学系研究科 神経細胞生物学講座助教として基礎医学研究に従事。阪南中央病院皮膚科勤務を経て、2017年天下茶屋あみ皮フ科クリニック開院。