『いんきんたむし(股部白癬)』の症状・治療法

いんきんたむし(股部白癬)とは

  • いんきんたむしは医学的には「股部白癬(こぶはくせん)」といい、股や臀部、太ももの付け根(鼠径部:そけいぶ)を中心に、かゆみを伴った円形~楕円形の皮疹が見られます。辺縁が盛り上がり、辺縁の中は治ったようにみえる特徴的な発疹が現れる病気です。
  • 皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)という「カビ(真菌)」の一種が、股間周辺の皮膚に寄生して起こる皮膚真菌感染症の一つです。皮膚糸状菌は白癬菌と呼ばれることがありますが、白癬菌は皮膚糸状菌の一部なので、皮膚糸状菌というのが正しいです。
  • かつては若い男性に多い病気で、運動部に所属している青年男児のほとんどが罹患したことがある病気でしたが、近年は運動後にシャワーを浴びるなど、清潔にしていることが多いため、ほとんど見られなくなっています。そのかわり足の水虫(足白癬:あしはくせん)や爪の水虫(爪白癬:つめはくせん) を放置している高齢者に見られるようになってきました。よくあるのは、股部白癬と気付かずに、ステロイド外用剤を使用して悪化させてしまったケースです。
  • 股部白癬は自然に治ることが多いですが、足や爪の水虫は自覚症状が少ないため、放置している人が多いです。そのため、足や爪の水虫が感染源になっていんきんたむしになる人がいます。
  • いんきんたむしは直接触れ合わなくても、タオルやバスマットなどを共有することによって人にうつる場合があります。

いんきんたむし(股部白癬)の症状

  • 皮膚糸状菌に感染することで、感染部位に炎症が起き、境界線のはっきりした赤みが出ます。
  • 最初は小さい発疹が現れ、徐々に輪が広がるように拡大します。それと並行して輪の中は赤みが薄くなり、元の皮膚の色に戻っていくため、輪の縁だけが赤く盛り上がる特徴的な発疹へと発展します。
  • いんきんたむしは、掻きむしりたくなるような強いかゆみを伴います。
  • いんきんたむしの原因菌である皮膚糸状菌は、ジメジメと湿った環境を好むため、股周辺の皮膚がこすれ合う部分から発症し、次第に太ももの付け根へと広がります。発疹は左右対称にできることもあります。

いんきんたむし(股部白癬)の原因

  • いんきんたむしは、皮膚糸状菌というカビの一種が股部周辺の皮膚に感染することによって発症します。
  • 皮膚糸状菌は皮膚の角質層に多く含まれるケラチンというタンパク質をエサにして、特にジメジメと湿った環境を好んで活発に増殖します。
  • 白癬は皮膚糸状菌が皮膚に付着して生ずる感染症です。白癬の中でも最も発症の頻度が高い足白癬は、感染している人との直接的な接触によって感染することは少なく、履物やバスマット、畳、床などを共有することで、足の皮膚に皮膚糸状菌が付着して生ずることが多いです。一方、いんきんたむしは、皮膚糸状菌が股部に感染しますが、足や爪の水虫を持っている人が、そこで増殖した皮膚糸状菌を手指やタオル類を介して股間周辺に移してしまうケースがほとんどです。他人から直接感染するというよりは、自分自身の足や爪の水虫が感染源になっていることが多いです。
  • 健康な皮膚に皮膚糸状菌が付着した場合はすぐに感染するわけではありません。感染部位によって異なりますが、長時間皮膚に付着していると、皮膚糸状菌が角質層内に侵入し、感染が成立するといわれています。



いんきんたむし(股部白癬)の診断・治療法

診断方法

  • いんきんたむしの診断は、患部の皮膚片を臨床検査技師、もしくは医師が採取し、顕微鏡で観察して皮膚糸状菌がいるかどうかを確認して行います。

治療法

  • いんきんたむしの治療には、抗真菌剤を含んだ外用薬による治療が基本です。皮膚を清潔に保つことを心がけ、外用剤を塗って皮膚糸状菌の増殖を抑えつつ、ターンオーバーによって感染した皮膚が剥がれ落ちるのを待ちます。
  • 全身に拡大している場合は、外用剤による治療で効果が不充分な場合があり、内服薬による治療が必要になることもあります。
  • いんきんたむしでは外用剤の治療約2週間で良くなります。しかし中途半端な治療では再発することもあるため、医師の指示通りに治療を最後まで受けることが大切です。
  • 足や爪の水虫が原因でいんきんたむしになっている場合は、足や爪の水虫もきちんと治療することが大切です。
  • いんきんたむしとわかっている場合は、水虫用の市販の塗り薬を使ってセルフケアできます。しかし、別の皮膚疾患との見分けが難しく、正しい治療をしなければ悪化して病気が進行する恐れがあるため、基本的には、医療機関で診断と治療を受けましょう。

医療機関に行く目安

  • 初めていんきんたむしが疑われるような症状が出た場合は自己判断せず、まずは医療機関を受診しましょう。
  • 市販のOTC医薬品を使用して症状がよくならない時、悪化している時、何度も同じような症状を繰り返している時は市販薬の使用を中止し、医療機関で相談してください。いんきんたむしでない可能性が高いからです。

いんきんたむし(股部白癬)の予防法

  • いんきんたむしの感染経路として最も多いのは、自分が持っている足や爪の水虫からの感染が多いですが、30年以上前は感染している人との直接的な接触やバスマットなどを共有することで、皮膚に皮膚糸状菌が付着して感染することもありました。
  • 高齢者では足や爪の水虫を持っている人が多く、そこからの感染で生ずることが多いです。すでに足や爪の水虫に感染しているという人は、まずはそれらに対する治療を行い、皮膚糸状菌を別の場所に広げないことが重要です。
  • 皮膚糸状菌に感染した人との直接的な接触や床、畳、履物、バスマット、タオルなどの共有によって感染リスクが高まりますので、足や爪の水虫は家族内感染が多いです。できる限り、共用の履物やバスマット、タオルなどの使用は避けましょう。また、プール、スポーツジム、公衆浴場など、不特定多数の人がマットやスリッパなどを共有する場所は、皮膚糸状菌への感染リスクが高いため、足や爪の水虫にかかりやすくなります。
  • 毎日の入浴で全身を清潔に保っておくことも大切です。万が一、皮膚糸状菌が皮膚に付着してしまった場合も、24時間以内に洗い流せば感染を予防することが可能です。ただしゴシゴシ洗いは皮膚に傷をつけ、かえって感染しやすくなります。
  • 高温多湿な夏場などは、汗をかきやすく、下着の中が蒸れるため、皮膚糸状菌が繁殖しやすくなります。入浴後や汗をかいた後などは清潔なタオルで余分な水分を取り除き、蒸れを防ぎましょう。
  • 普段から、通気性のいい衣服や下着を選びましょう。締め付けの強いズボンや下着を長時間身につけると、皮膚が密着して蒸れやすくなります。しかし、蒸れを防ぐことよりは、足や爪の水虫にならないことの方が、股部白癬を防ぐ予防になります。

監修

帝京大学医学部皮膚科 名誉教授

渡辺晋一先生

1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。

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