湿疹・皮膚炎の治療に用いる『ステロイド外用剤』とは?副作用は?正しい使い方を解説


湿疹や皮膚炎の治療に用いる「ステロイド外用剤」。皮膚トラブルに伴う局所的な炎症反応を抑え、かゆみや赤み、腫れなどの不快な症状をしずめる薬です。ステロイド外用剤を「一度使うとやめられなくなる」、「ステロイド外用剤は副作用が怖い」といった誤ったイメージを抱いている方がいるかもしれませんが、これは間違いです。ステロイド外用剤を正しく活用するために、ステロイド外用剤の作用や副作用、正しい使い方についての知識を身につけましょう。

ステロイドとは

「ステロイド」とは、ヒトの副腎皮質という臓器で作られる抗炎症作用を持つステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン)を基礎にして合成した薬効成分「合成副腎皮質ホルモン」の通称です。化学的に合成することにより、副腎皮質ホルモンが持っている抗炎症作用などの有益な作用を強化しています。ステロイドを主成分として配合した薬を「ステロイド剤」と言います。ステロイド剤には、患部に直接つける「外用剤(塗り薬)」だけでなく、口から投与する「内服薬」、注射で体内に投与する「注射薬」などの剤形があり、目的や症状、疾患、重症度に合わせて使用します。

ステロイド外用剤とは

ステロイド外用剤は、薬効成分としてステロイドを配合した湿疹・皮膚炎の治療などに用いられる薬のことで、患部に直接塗って使用します。ステロイド外用剤は、「抗炎症作用」、「細胞増殖抑制作用」、「血管収縮作用」、「免疫抑制作用」などを持っており、有効成分が局所にだけ作用し、皮膚の炎症をすみやかに抑え、かゆみや赤みなどの症状をしずめる働きがあります。ステロイド外用剤は、皮膚科などで処方薬として処方されるものもあれば、薬局やドラッグストアなどでOTC医薬品として市販されているものもあります。

ステロイド外用剤は、皮膚の炎症反応をしずめる薬です。しかし、その一方で、「一度使うとやめられなくなる」、「骨がもろくなる」など、ステロイドの副作用に関する誤った情報を耳にして、漠然とした不安を抱いてしまう方もいるようです。しかし、実際にはステロイド外用剤は、正しく使用する限り、重篤な副作用が起こることはまず考えられません。なぜなら、その有効成分が局所にだけ作用し、全身には影響を及ぼさないように作られているからです。

ステロイド外用剤の強さのランク

ステロイド外用剤は、作用がおだやかなものから、強力なものまでさまざまな種類があります。医療機関で処方されるステロイド外用剤としては作用の強いものから「ストロンゲスト」、「ベリーストロング」、「ストロング」、「マイルド」、「ウィーク」の5つのランクがあり、皮膚症状の程度や患者の年齢、使用部位などを加味して、ひとりひとりに合ったランクのステロイド外用剤を選びます。

表①

一方、市販のOTC医薬品としては、「ストロング」、「マイルド」、「ウィーク」といった3つのランクのステロイド外用剤があります。

市販のOTC医薬品でセルフケアする場合は、使う人の年齢によってランクを使い分けます。これは、赤ちゃんや小さい子どもほど皮膚が薄く、皮膚のバリア機能が弱いため、薬の効果が強く出る傾向があるためです。2才未満の赤ちゃんには一番下のランクの「ウィーク」を、幼児から小学生までの子どもには1ランク上の「マイルド」、大人には「ストロング」を選び、年齢に合った強さのステロイド外用剤を使用しましょう。

ステロイド外用剤の吸収率

ステロイド外用剤の皮膚への吸収率は、年齢による違いだけでなく、使用する部位によっても異なります。表②は、腕の皮膚へのステロイド外用剤の吸収率を1とした時の、健康な皮膚の部位別吸収率の差を示した図です。皮膚が薄くデリケートな部位は吸収率が高く、皮膚が厚い部位は吸収率が低くなっています。

表②

医療機関でステロイド外用剤が処方される場合は、症状の程度に加え、使用する部位の吸収率も考慮して適切なランクのステロイド外用剤が決められます。市販のOTC医薬品を用いたセルフメディケーションでは、年齢に応じてステロイド外用剤のランクを選びましょう。

ステロイド外用剤の副作用

ステロイド外用剤によって起こる副作用は、「局所性の副作用」と「全身性の副作用」の2つに大別されます。

「局所性の副作用」とは、ステロイド外用剤を塗った局所のみに現れる副作用のことです。定められた使用量や使用期間を超えて、長期間にわたってステロイド外用剤を連用していたり、皮膚への吸収率の高い部位に強いステロイドを使い続けたりすると、ステロイドの持つ細胞増殖抑制作用により、塗った部位の細胞の増殖が抑制され、皮膚が薄くなったり、毛細血管が拡張して血管が浮き出て見える、「酒さ様皮膚炎(しゅさようひふえん)」などの副作用が出ることがあります。稀に免疫抑制作用によって、カンジタ症やヘルペスなどの感染症の誘発や悪化などの皮膚症状が出る可能性があります。ただし、定められた用法を守って、正しくステロイド外用剤を使用する分には、これらの局所性副作用が出ることはほとんどないと言えます。

一方、「全身性の副作用」とは、皮膚からステロイドが血中に吸収され、全身的な影響を及ぼす副作用のことです。しかし、全身性の副作用のほとんどは、内服薬や注射剤のステロイド剤による全身投与を行った場合に見られるものであり、ステロイド外用剤を正しく使用する限りは、通常は起こり得ないものです。

ステロイド外用剤の正しい使い方

ステロイド外用剤は、年齢に応じて、充分な強さのステロイド外用剤を選びます。1日1~数回、適量を指にとって、やさしく患部に塗布します。ステロイド外用剤の適量は、経口5mmのチューブから大人の人差し指の第一関節の長さに押し出した量(約0.5g)を、大人の手のひら約2枚分の範囲に塗るのが目安です。これを「フィンガーチップユニット」と言い、ステロイド外用剤に限らず塗り薬一般の使用量の目安になります。

この目安を基準に、実際の患部の広さに合わせて一回当たりの使用量を決めましょう。そして、湿疹やかゆみなどの炎症が治まった部位にはつけないようにします。5g入りのチューブなど口径が小さい場合は長めに出すなど調節してください。

ステロイド外用剤を使用する際の注意点

ステロイド外用剤を塗る時は、健康な皮膚には塗らず、患部だけに塗ります。症状が出ていないにもかかわらず、予防的に使用するのは避けましょう。炎症に対して、市販のステロイド外用剤を使ってセルフケアする場合は、1週間以上続けて使用しないでください。特に陰部や首から上など皮膚が薄い部位は長期間使用しないよう注意が必要です。

ステロイド外用剤を5~6日間使用しても症状が改善しない、または悪化している時は、医療機関を受診しましょう。また、手のひら2~3枚分を超える広範囲に症状が出ている時は、OTC医薬品の範疇を超えています。医療機関での治療が必要なため、医師に相談してください。

監修

帝京大学医学部皮膚科 名誉教授

渡辺晋一先生

1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。

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