厚生労働省が提示する「新しい生活様式」が浸透し、1日の大半をマスクで過ごすことが増えた今、マスク着用に関連した肌荒れに悩む人が増えています。
「マスクをつけていると、口の周りが赤くなり、ニキビのようなプツプツができてしまう…」
「マスクが触れる場所がかぶれてしまう…」
そんな皮膚トラブルは、マスク着用による肌荒れ、いわゆる“マスク荒れ”かもしれません。マスク生活による皮膚トラブルについて解説します。
“マスク荒れ”の原因と症状
マスク着用時に関連して起きる肌荒れには、以下のような症状があります。
- マスクが触れている部分がかゆくなったり、ヒリヒリしたりする
- マスクをつけていると、口の周りが赤くなる、ニキビのようなプツプツができる
- マスクを外すと肌が乾燥しているように感じる
などです。
このような不快な症状が出てくる主な原因には、マスク着用によって起こる「蒸れ」と「摩擦刺激」が関係しています。そもそも私たちの正常な皮膚には、皮膚をみずみずしく健康に保ち、外的刺激から守るための「皮膚のバリア機能」が備わっています。皮膚のバリア機能は、皮膚表面を覆う「角質層」と、皮脂でできた天然のクリームである「皮脂膜」のコーティングでできていますが、マスクによる「蒸れ」と「摩擦刺激」がこの皮膚のバリア機能を低下させ、肌荒れを引き起こします。
まずは、「蒸れ」について考えましょう。感染症対策においては、マスクの縁を顔に密着させ、口や鼻から吐く息が外に漏れないようにすることが重要視されます。しかし、口や鼻から吐く息でいっぱいのマスクの中は湿度が上がり、暑い季節には汗もかくため、常時皮膚が蒸れた状態になります。長時間マスクの中が蒸れていると、皮膚表面の角質層はふやけて、皮膚のバリア機能が低下します。そして、そこに追い打ちをかけるのがマスクによる「摩擦刺激」です。
マスク着用中の表情の動きや、マスクの着脱によって、皮膚とマスクの間には常に摩擦が生じ、肌に常にストレスがかかっている状態になります。蒸れてふやけた皮膚は、摩擦にも弱いので、擦れることでさらに角質層が傷ついてしまうという悪循環に陥ります。また、蒸れによって皮膚がふやけている時に、マスクを外すと、ふやけた皮膚が急に乾燥した空気にさらされることになり、皮膚の潤いが一気に抜けて、皮膚のバリア機能に大きなダメージを与えます。
このように、蒸れと摩擦によって皮膚のバリア機能が低下した状態の皮膚は、無防備な状態になり、さまざまな外的刺激を受けて炎症を起こしやすくなります。
そんな“マスク荒れ”は、広い意味で「接触皮膚炎」という皮膚の病気に分類されます。
- 接触皮膚炎(せっしょくひふえん)…皮膚に直接触れた物質(成分や繊維、金属など)が刺激になって皮膚に炎症が起きる湿疹性の炎症反応で、いわゆる“かぶれ”のことです。マスク着用によって起きる皮膚トラブルの多くは、慢性的な接触皮膚炎のようなもので、主な症状としては赤み・かゆみ・ヒリヒリ・ブツブツなどの炎症がマスクに触れている部位に現れます。マスクの着脱による、“蒸れ・乾燥”などの激しい環境変化が皮膚を刺激し、炎症を引き起こすこともあります。また、マスクを長時間着用していると、皮膚のバリア機能が低下するため、これまでは何ともなかった化粧品などの成分や食べ物・薬剤の成分に対して過剰反応を起こし、かぶれてしまうこともあります。
接触皮膚炎では、湿疹症状の一つとして赤いプツプツが出ることもあります。一見、ニキビに似ているので、「ニキビができた」と勘違いする方もいるかもしれませんが、ニキビ(尋常性ざ瘡)は毛穴に皮脂がたまり、アクネ桿菌(かんきん)が増えることで起きる全く別の病気です。接触皮膚炎とニキビは治療が異なりますのでよくわからない場合は皮膚科に相談しましょう。
“マスク荒れ”の予防・ケア方法
“マスク荒れ”を予防するには
- やさしい素材・自分に合ったサイズのマスクを選ぶ
まずは、皮膚に負担の少ないマスクを使用しましょう。皮膚に触れる部分が堅いものや、ゴワゴワ・チクチクした素材のものは避け、着用していて不快感のない肌にやさしい素材のマスクを選びます。化学繊維に過敏に反応しやすい場合は、綿素材などのマスクを選ぶのもよいでしょう。しかし、最近では感染防止効果の高い、不織布マスクの着用を求められるシーンが多くなっています。不織布マスクを着用する場合は、皮膚とマスクの間に、綿素材のガーゼを挟むのもよい方法です。
マスクのサイズや形状選びも重要です。小さいマスクを無理につけると、皮膚を圧迫し、皮膚トラブルが起きやすくなります。逆に大きいマスクをつけると、隙間が生じ感染予防に役立ちませんし、皮膚とマスクの間にできた隙間に過度な摩擦が起き、肌に大きなストレスがかかってしまいます。自分に合ったサイズ・形状のマスクを選ぶことが重要です。マスク着用中は、マスクを頻繁に触ったり、必要以上につけ外しをしたりすると、その度に摩擦が生じます。マスクの表面を無意識に触っていないかを注意しましょう。
- 日々の丁寧なスキンケアが重要
基本的なスキンケアも重要です。マスクを外した後は、やさしく丁寧に洗顔し、汚れやメイクを落として皮膚を清潔に保ちましょう。とくに、マスク着用によって蒸れた肌は乾燥や刺激に弱く、敏感な状態になっているので、すぐに保湿をし、皮膚のバリア機能を回復させることを習慣づけましょう。
“マスク荒れ”が起きてしまったら
マスクをつけていた部分がつっぱったり、カサカサしたりするなどの軽い乾燥症状が出たら、ワセリンなどの保湿力の高い保湿剤でこまめに保湿を続けると、たいてい自然に回復します。ただし、赤み・かゆみ・ヒリヒリ感がある場合は、皮膚に炎症が起きているので、ステロイド外用剤を使ってすみやかに炎症を抑える必要があります。
顔は身体の他の部位に比べて皮膚が薄く、ステロイド成分が浸透しやすいため、弱めのステロイド外用剤でも充分な効果が期待できます。ただし長期連用にならないようご注意ください。
マスク着用時の注意点
赤み・かゆみ・ヒリヒリ感、ブツブツなど、“マスク荒れ”による炎症に対しては、ステロイド外用剤による治療が有効です。しかし、そもそもの原因はマスクの着用にあるので、症状が現れたマスクの使用をやめないかぎり炎症反応はなくなりません。ただし、ニキビの場合はステロイド外用剤はつけてはいけません。
“マスク荒れ”が気になる時は、できるだけ肌に負担の少ない素材や種類のマスクに変更しましょう。マスク着用時は思っている以上に汗をかくため、こまめに汗を拭き取り、誰もいない場所ではマスクを外すなどして、皮膚を清潔に保ちましょう。
病院に行く目安は
基本的なスキンケア・保湿ケアをしっかり行うとともに、炎症のある部分に関してはステロイド外用剤を使用します。しかし、1週間使用しても症状が改善しない場合や、症状が悪化している場合は、自己判断はせずに、専門医を受診しましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。