ヘルペスとは
- ヘルペスとは、小さいみずぶくれ(小水疱:しょうすいほう)が集った急性炎症性皮膚疾患のことです。しかし、現在は単にヘルペスという時は「単純疱疹」または「帯状疱疹」のことをさします。
- ヘルペスの水ぶくれ(水疱:すいほう)の中にはウイルスがたくさん含まれており、ウイルスに触れることで人から人にうつることがあります。
- ヘルペスウイルスに一度感染するとウイルスは神経節に潜伏し、免疫力が低下したタイミングで再び活性化して症状を繰り返します。今のところ、一度感染したヘルペスウイルスを完全に除去する治療法はありません。
ヘルペスの種類
日本では原因になるヘルペスウイルスによって、背中やわき腹などの広い範囲に痛みを伴う水ぶくれが広がる「帯状疱疹」と、唇に水ぶくれができる「口唇ヘルペス」や性器に水ぶくれができる「性器ヘルペス」などの「単純疱疹」に分けられます。
帯状疱疹
「水痘・帯状疱疹ウイルス」によって起こる感染症です。初めて感染した場合は「水ぼうそう」となります。水ぼうそうは乳幼児期~小児期にかかることが多いですが、この時期では症状が軽く、水ぼうそうにかかったことに気付かない人もいます。しかし、成人になって水ぼうそうにかかると38~39度程度の発熱があり、水膨れなどの症状が強く出ることが多いです。
水ぼうそうにかかると、ウイルスは神経節に潜伏感染しますが、体力や免疫が低下する、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗体価(抗体の量)が下がると神経節に潜伏したウイルスが活性化し、「帯状疱疹」を発症します。
幼少期に水ぼうそうにかかったことがない人は帯状疱疹になることはまずありませんが、幼少期は症状が目立たないため、水ぼうそうにかかったどうかわからない人もいます。
また、日本では1年間に約60万人が帯状疱疹にかかっていることから、80才までに3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれています。幼少期に水ぼうそうにかかった人はワクチンを接種して予防することを検討してみてもよいかもしれません。
帯状疱疹の症例画像1
帯状疱疹の症例画像2
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単純ヘルペス
単純ヘルペスには感染する部位によっていくつかの病名がありますが、そのうち代表的なものが口唇ヘルペスと性器ヘルペスです。
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- 口唇ヘルペス
「単純ヘルペスウイルスⅠ型(HSV-1)」によって起こることが多いです。唇などの皮膚や粘膜からウイルスが侵入し、唇やその周囲に水ぶくれや潰瘍ができます。
- 口唇ヘルペス
口唇ヘルペスの症例画像1
口唇ヘルペスの症例画像2
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- 性器ヘルペス
「単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV-2)」によって起こるといわれていますが、実際はHSV-1によることが多いです。接触によって感染し、性器や肛門の粘膜からウイルスが侵入して、水ぶくれや潰瘍(かいよう)などの症状を引き起こします。
症状について
帯状疱疹、口唇ヘルペス、性器ヘルペスの症状を解説します。
帯状疱疹
- 帯状疱疹は体幹部や背中などに小さな水ぶくれが集まった皮疹が神経に沿って帯状に広がり、ピリピリした痛みやしびれが出現します。痛みは徐々に強くなり、発症してから7~10日頃にピークを迎えます。水ぶくれは破れてジュクジュクし、やがてかさぶたになって治癒します。しかし、痛みや水膨れがあまり目立たないこともあります。
- 高齢者が帯状疱疹にかかった場合は、皮疹が消えた後も、長い場合は半年~数年間続く強い神経痛、「帯状疱疹後神経痛」という後遺症が出ることもあります。
口唇ヘルペス・性器ヘルペス
- ウイルスに感染した粘膜または皮膚に前駆症状として、ピリピリとしたかゆみや痛み、しびれなどの違和感が生じます。
- 前駆症状後、数時間~半日ほど経つと患部に赤みやはれ、熱感が生じます。
- 前駆症状が生じてから1~3日後には、小さな水ぶくれの集合ができます。この時に痛みと激しいかゆみを伴うこともあります。
- 水ぶくれは破れてジュクジュクした潰瘍になり、やがてかさぶたになって1~2週間ほどで治ります。
- 症状が治まったあとも、ウイルスは神経節に潜み、紫外線にさらされたり、免疫力が低下したタイミングで再び活性化し、症状を繰り返すことが多いです。
- はじめて口唇ヘルペス、性器ヘルペスにかかった時は症状が強く出る傾向があり、いくつかの水ぶくれがつながって大きな潰瘍になったり、リンパ節のはれや発熱、倦怠感などの全身症状が起きたりすることもあります。しかし、無症状の場合もあります。
ヘルペスは人にうつる?
ヘルペスは感染症のため、人にうつる可能性があります。ヘルペスウイルスの種類やヘルペスの病態によって感染力、感染経路が異なる場合があります。
帯状疱疹
帯状疱疹は周囲の人に水ぼうそうをうつすことがありますが、帯状疱疹をうつすことはありません。例えば、帯状疱疹にかかった高齢者から、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫を持たない赤ちゃんや幼児に水ぼうそうをうつす可能性があります。つまり赤ちゃんに現れる症状としては、帯状疱疹ではなく水ぼうそうとして現れます。潜伏期間は2~3週間です。
口唇ヘルペス
患部の水ぶくれの中に多くのウイルスが含まれており、キスや母子間での口移し、食器の共有などによる接触感染や、ウイルスを含む飛沫を浴びて感染する飛沫感染で周囲の人にうつる可能性があります。潜伏期間は2~10日です。
性器ヘルペス
ほぼ性行為によって感染します。感染力が強く、症状が出ていない時であっても、性器からはウイルスが排出されている場合があり、感染することがあります。稀に、便座や公衆浴場のいすなどを介して感染する例もあります。潜伏期間は2~10日です。
治療について
ヘルペスウイルスは、一度感染すると体内から完全に除去することはできません。治療法としては抗ウイルス薬を使用し、ウイルスの活性を抑える治療が基本になります。
帯状疱疹
医療機関での治療が必要です。できるだけ早期に受診し、抗ウイルス薬による治療を開始します。痛みやはれなどの症状に対しては、鎮痛剤を使って症状を和らげます。
口唇ヘルペス
初めて感染した場合では、あまり感染症状が出ない(不顕性感染:ふけんせいかんせん)ことがありますが、皮膚症状が強く出るケースも多く、発熱やリンパ節のはれ、倦怠感などの全身症状が出ることもあります。医療機関でヘルペスと診断された場合は、ウイルスを抑制する効果のある塗り薬や飲み薬で治療します。ただし原因となるウイルスは神経節にいるので、塗り薬の治療効果は乏しいと言われています。
一方、再発した場合はたいてい症状は軽くなります。症状が軽い場合は塗り薬や内服薬で治療します。再発した場合は口唇ヘルペスに適応のある市販のOTC医薬品を活用してセルフケアすることもできます。薬剤師がいる薬局やドラッグストアでは、口唇ヘルペス治療用の市販の塗り薬(第一類医薬品)を購入できます。
性器ヘルペス
医療機関での治療が必要です。医療機関では、口唇ヘルペスと同様にウイルスを抑制する塗り薬や飲み薬で治療します。ただし原因となるウイルスは神経節にいるので、塗り薬の治療効果は乏しいです。特に性器ヘルペスに初めて感染した場合は、痛みやリンパ節のはれのために排尿困難、歩行困難などの強い症状が出ることがあり、入院での点滴治療が必要になることもあります。
感染予防について
ヘルペスの種類によって感染経路が異なり、感染予防法も異なります。
帯状疱疹
水痘・帯状疱疹ウイルスによる帯状疱疹の予防に関しては、現在50才以上の人に限り、ワクチンを接種できます。接種を検討している人は医療機関でかかりつけ医に相談しましょう。ただし、小児科や保育園・幼稚園では水ぼうそうにかかっている乳幼児(無症状の感染者も含む)がいるので、そのような乳幼児と接触する機会が多い人は、水痘・帯状疱疹ウイルスにさらされることでブースター効果(追加免疫効果)を得やすく、帯状疱疹を発症する人は少ないと言われています。
口唇ヘルペス
口唇ヘルペスの原因ウイルスに対するワクチンはありません。感染を予防するには、マスク、咳エチケット、手洗いなどの基本的な感染対策を行うことが大切です。特に症状が出ている時は、家族間での食器やタオルの共有は避けましょう。
性器ヘルペス
特に性器ヘルペスの症状が出ている時は、性交渉によってパートナーにうつしてしまうリスクが高くなります。症状が出ている期間は、性交渉を控える必要があります。ただし、症状が出ていない時でもパートナーに感染する例もあるため、注意が必要です。
発症・再発予防法について
睡眠不足やストレス、疲労や紫外線による皮膚のダメージをきっかけに、再発することもあります。疲れを感じたら積極的に休む、紫外線を避けるなどを心がけ、ヘルペスの再発を予防しましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。