口唇ヘルペス(こうしんへるぺす)とは
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- 口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスによって起きる感染症で、唇の粘膜やその周りの皮膚に痛みを伴う「水疱(すいほう:水ぶくれ)」や「ただれ(びらん)」などの症状が現れます。
- ウイルスに汚染された患部または手指、器具、タオルなどを介した接触や、くしゃみや咳などの飛沫を介して人に感染します。
- 口唇ヘルペスの原因である単純ヘルペスウイルスは、一度感染すると完全に除去することはできません。症状が軽快した後も、ヘルペスウイルスは神経の奥深くに潜伏し、ストレスなどによって免疫力が低下するとウイルスが活性化し、容易に再発します。
- 単純ヘルペスウイルスへの初感染では症状が強く出ることもありますが、無症状のこともあります。また、再発の場合は軽い症状となることが一般的です。
- 再発の頻度や症状の程度には個人差があり、感染しても症状が出ない人もいます。
- 成人の約30%の人が口唇ヘルペスの発症経験があるといわれています。
口唇ヘルペスの原因
- 口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に感染することで発症します。
- 口唇ヘルペスの感染経路は主に接触感染です。口唇ヘルペスを持つ人と直接触れ合ったり、患部の浸出液や唾液に触れたり、ウイルスに汚染された手指や器具に触れたりすることで感染します。くしゃみや咳などの飛沫による「飛沫感染」が起きる場合もあります。
- 初感染では、皮膚にできた傷や粘膜部分からヘルペスウイルスが細胞内へと侵入し、2~10日の潜伏期間を経て、皮膚症状が出現します。
- 単純ヘルペスウイルスに一度感染すると、水ぶくれやただれなどの症状が治まった後も、ヘルペスウイルスは神経の奥深くにある「神経節」という神経の集まりの中に潜伏し続けます。
- 神経節に潜伏したヘルペスウイルスは、除去することはできないため、ストレスや過度の疲労、紫外線を浴びる、寝不足、風邪気味、発熱などによって、私たちの免疫系や病気に対する抵抗力が低下するたびに、再び活性化し、症状を繰り返します。これを「再発」といいます。
口唇ヘルペスの症状
口唇ヘルペスの症状の段階には、以下のように大きく分けて4つの段階があります。
- 前駆症状
皮膚に水ぶくれやただれ、赤みなどの病変が出現するのに先立って、唇やその周りに、ヒリヒリ・チクチクするような皮膚の違和感・痛み、ムズムズするようなかゆみ、軽度のしびれなどの自覚症状が出現します。 - 発症(病変出現)
前駆症状を自覚してから数時間~半日ほどで、唇や周囲に皮膚に赤みや腫れ、熱感が生じます。患部でウイルスが急激に増殖している時期で、1~3日ほど続きます。 - 急性期
前駆症状から1~3日後には、かゆみを伴う大小の水ぶくれが複数できます。水ぶくれはやがて潰れて、ジュクジュクした潰瘍になります。初感染の場合は、比較的症状が強く出る傾向があり、いくつかの水ぶくれが繋がって、大きな潰瘍になることもあります。水ぶくれの中の液や潰瘍部分にはウイルスがたくさん含まれており、患部を直接触れたり、その手で粘膜に触れたりすることで、他人に感染しやすいため、特に注意が必要な時期です。 - 回復期
潰瘍部分がかさぶたになり、1~2週間かけて治癒します。
- 口唇ヘルペスになると、唇の粘膜やその周りの皮膚に軽いかゆみや痛みを伴う水ぶくれやただれなどの症状が見られます。
- 一般的に、初感染のケースでは、比較的広範囲に強い症状が出る傾向があります。
- 再発のケースでは一箇所に限局して症状が出現し、初感染の時よりも症状は軽くなります。
- 一度感染したヘルペスウイルスは、皮膚症状が回復した後も神経節という神経の奥深くに潜伏し、何度も再発を繰り返すという特徴があります。
- 肉体的・精神的疲労やストレス、寝不足、風邪気味、発熱、紫外線を浴びるなどの要因によって、免疫力や体力が低下すると、神経節に潜んでいたヘルペスウイルスが再び活性化し、皮膚へと移動します。そのため、唇やその周囲にかゆみ、赤み、水ぶくれなどの皮膚症状が現れます。
- 再発の頻度は平均して年に2回程度といわれていますが、個人差が大きく、まったく無症状の人もいれば、年2回以上再発する人もいます。
口唇ヘルペスの治療法
- 口唇ヘルペスは比較的感染力の強い感染症です。家族や他人にうつさないためにも、しっかりと治療することが大切です。
初感染の場合
- 初感染の場合、症状が強く出ることが多いため、口周りに水ぶくれやただれができるなどして、口唇ヘルペスが疑われる場合には必ず皮膚科を受診しましょう。
- 初感染例や重症例では、ヘルペスウイルスを抑制する働きのある内服薬や点滴剤によって治療します。
- ただし、初発の場合は、かぶれなどの湿疹皮膚炎との区別がつきにくい場合があります。口唇ヘルペスの患部にステロイド外用剤を使用すると、症状が悪化することがあります。「口唇ヘルペスかな?」と思ったら、自己判断をせず、医師に相談しましょう。
再発の場合
- 再発例や軽症例では、ヘルペスウイルスを抑制する働きのある外用剤で治療することもあります。
- 何度も再発を繰り返しており、今出ている皮膚症状が口唇ヘルペスによるものと明らかな場合は、市販のOTC医薬品によるセルフケアが可能です。ドラッグストアや薬局などでヘルペス治療用のOTC医薬品(外用剤)を購入し、治療しましょう。
- ただし、OTC医薬品を使用しても症状が改善しない、あるいは悪化しているなどの場合は、自己判断せず、皮膚科を受診してください。
口唇ヘルペスの症状が出ている時の注意点
- 口唇ヘルペスは比較的感染力の強い感染症です。口唇ヘルペスの症状が出ている時は、患部からのウイルス排出量も多く、他の人にうつしてしまうリスクが高まります。他の人にうつさないためにも、感染予防に努めましょう。
- 家族または他の人と、タオルやコップなどの共有は避けてください。口唇ヘルペスは、直接的な触れ合いが無くても、物を介して感染が拡大することがあるため、注意が必要です。
- 口唇ヘルペスの症状に気付いたら、放置せずにできるだけ早期に適切な治療をすることも、感染拡大予防の観点からとても重要です。早期に治療を開始することで、治癒期間を短縮し、周囲への感染拡大リスクを抑えることができます。
- 患部は常に清潔に保つとともに、患部を掻いたり、触ったりしないようにしましょう。不用意に患部に触ると、手指を介して感染を広げてしまうリスクが高まるからです。万が一、患部に触ってしまった場合は、石鹸で手をよく洗いましょう。アルコールによる手指消毒も、口唇ヘルペスの予防に有効です。
- 口唇ヘルペスの症状の中で、水ぶくれができる急性期は特に強いかゆみを感じやすい時期ですが、かゆみにまかせて患部を掻くことは厳禁です。がまんできないかゆみがある時は、医療機関を受診し、医師に相談しましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。