いぼ(尋常性疣贅:じんじょうせいゆうぜい)とは
- 尋常性疣贅とは、日常的によく見られる良性の「いぼ」のうち、ウイルス感染によってできるものです。
- ヒトパピローマウイルス(HPV)によって引き起こされる皮膚感染症の一つであり、「ウイルス性疣贅」または「ウイルス性いぼ」とも呼ばれます。
- ヒトパピローマウイルスには100種類以上の型があり、尋常性疣贅ばかりでなく子宮頸がんや陰茎がん、喉頭がんなどの原因となることがあります。
- いぼ(尋常性疣贅)の形状にはいくつかのタイプがあります。最も典型的なタイプは手足の指やひじ、ひざなどに、表面がざらざらとした魚の目やタコのような突起ができるタイプです。
- タコや魚の目と見た目はよく似ていますが、原因が全く異なる皮膚疾患です。
いぼ(尋常性疣贅)の症状
- 尋常性疣贅には、形状や感染部位の異なるいくつかのタイプがあります。
- いずれのタイプも主な症状は皮膚の盛り上がりや突起であり、通常、かゆみや痛みはほとんどありません。
- ウイルス感染症のため、免疫がつけば自然に治ることもありますが、放置していると大きくなったり、数が増えたり、治療をしても再発したりすることもあります。
いぼ(尋常性疣贅)のタイプ
見た目で以下のように分類されていますが、原因となるヒトパピローマウイルスが異なることが多いです。
一般的な尋常性疣贅
最もよく見られるタイプです。小豆大から一円玉大の皮膚の突起が手足の指やひじ、ひざなどにできます。ただし魚の目のような芯はありません。1個だけできることもあれば、数個がかたまってできることもあります。
指状疣贅/糸状疣贅
顔面や首まわり、わき腹などにできるやわらかいタイプのいぼです。すぼめた指や糸が飛び出たように見える2~3mm程度の突起がたくさんできます。僅かに灰色や褐色をしているものもあり、引っぱると痛みが生じます。中年以降によく見られる首のまわりに多発する肌色の小さなブツブツは、スキンタッグやアクロコルドンと呼ばれる皮膚の良性腫瘍で、しばしば指状疣贅と間違えられています。
足底疣贅/モザイク疣贅
足の裏にできるいぼです。ほかのタイプのいぼとは異なり、皮膚にめり込むように増殖し、初めはへこんで見えることがあります。やがて周囲の皮膚ごとゴツゴツとした硬い盛り上がりになります。この足底疣贅がいくつか密集し、まるで色調の異なるタイルを敷いたような局面になった状態をモザイク疣贅と呼びます。
ミルメシア
手のひらや足の裏に発症し、皮膚が盛り上がります。魚の目と間違われることが多いです。
爪周囲疣贅/爪甲下疣贅
爪の付け根や甘皮の周囲にできるいぼを爪周囲疣贅、爪の下にできるいぼを爪甲下疣贅といいます。爪を噛むクセで感染が広がったり、症状が進行したりすることがあります。稀に癌化することがあります。
いぼ(尋常性疣贅)の原因
- 皮膚や粘膜にできた僅かな傷口からヒトパピローマウイルスが侵入し、皮膚の奥深くの細胞(基底細胞)に感染します。ヒトパピローマウイルスに侵されると、感染した細胞が周囲の正常な細胞を押しのけて異常に増殖することで、いぼ(尋常性疣贅)を形成します。
- いぼ(尋常性疣贅)の中のウイルスは古い角質と共に剥がれ落ち、ほかの部位やほかの人に感染します。
- 健康な皮膚の場合は、傷がなければ、いぼ(尋常性疣贅)に触れたとしてもヒトパピローマウイルスへの感染リスクは低くなります。しかし、手指の小さな傷やカミソリ後にできた目に見えない傷などがある時はそこからウイルスが侵入し、感染が起こりやすくなります。
- ヒトパピローマウイルスはウイルスに感染した部位との直接的な接触だけでなく、傷があればウイルスのついた手指やタオル、スリッパなどを介して感染することもあります。
いぼ(尋常性疣贅)に似ている疾患
いぼ(尋常性疣贅)に似ている疾患には以下のようなものがあります。
水いぼ(伝染性軟属腫)
伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)ウイルスが原因で、1~6才の乳幼児に多く見られる皮膚感染症です。丸くてツルッとした、あわ粒くらいのやわらかいブツブツがたくさんできて徐々に増えて広がります。痛みやかゆみはなく、周囲の皮膚と同じ色かやや白っぽい色をしています。手のひらや足の裏、指にはできません。似ていると思われることも多いですが、よく見ると尋常性疣贅の症状とは異なるので、尋常性疣贅と間違われることはありません。
魚の目
皮膚への物理的圧迫などの刺激によってできる直径5~7mmほどの硬くて痛い角質の塊になったものです。中心部に白くて硬い芯ができて皮膚にめり込み、歩いたり、押したりすると痛みを感じるようになります。足の裏や足の指と指が当たる部位などにできます。人から人にうつることはありません。
タコ
魚の目と同じように、皮膚への機械的刺激によって角質が硬くなったものです。芯はなく、全体的にやや黄色味を帯びています。いわゆる「ペンダコ」や、赤ちゃんの「吸いダコ」と呼ばれるものです。通常痛みやかゆみはなく、人から人にうつることもありません。原因になる刺激を取り除けば、徐々に目立たなくなります。
いぼ(尋常性疣贅)の治療法
- いぼ(尋常性疣贅)の治療は基本的に医療機関で行います。放置していると、いぼが増えることが多いので、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。
- 皮膚科では、液体窒素を使っていぼを凍らせて除去する「凍結療法」が一般的ですが、その他にも電気を使っていぼを焼く「電気焼灼法」や、薬剤を使って除去するなど、いくつかの方法があります。
- いずれの治療法でも1回の処置で完治は難しく、何度か繰り返し処置を行い、徐々にいぼを小さくします。
- いぼを治療せずに放置していると、徐々に大きくなって痛みが出たり、身体のほかの部位や家族などに感染が広がったりするリスクがあります。一度できたいぼは、自然になくなることは少ないため、数が少ないうちに医療機関を受診しましょう。
- 爪の周囲や爪の下、あるいは陰部に生じたいぼは稀にがん化することがありますので、早めの治療が重要です。
いぼ(尋常性疣贅)ができた時の対処法
- いぼ(尋常性疣贅)は自分で除去したくなりますが、魚の目やタコとは違い、表面近くまで細かな血管がたくさん通っています。不用意に触ったり、ピンセットやカミソリで無理に取ろうとすると、ピンセットやカミソリを介して、他の部位にいぼが生じます。また出血したり、悪化したりする恐れがあるため、自己処理はやめましょう。
- いぼ(尋常性疣贅)はウイルス感染症のため、いぼから出る浸出液や皮膚片を介して、周囲の健康な皮膚やほかの人に感染が広がる可能性があります。感染予防の観点からもいぼはなるべく触らないようにし、いぼから浸出液が出ている時はガーゼや絆創膏で覆いましょう。
- 足の裏にいぼができている場合は、素足で過ごしていると家族にうつしてしまうことがあります。できるだけ靴下を履いて生活し、バスマットやスリッパはほかの人と共用しないようにしましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。