魚の目(うおのめ)とは
- 「魚の目」とは俗称で、医学的には「鶏眼(けいがん)」と呼びます。大人の足の裏などにできる直径5~7mmほどの硬くて痛い角質の塊のことです。
- 角層の塊の中心部分は半透明の円柱状をしており、その見た目から一般的には「魚の目(うおのめ)」と呼ばれています。
- 皮膚が繰り返し物理的な刺激を受けることで、肥厚(ひこう)した角質の中心が硬い芯のようになって皮膚にめり込み、歩いたり、押したりすると痛みを感じるようになります。
魚の目の原因
- 魚の目の原因は、皮膚への物理的圧迫などの慢性的な刺激で生じますが、その皮膚のすぐ下に骨がある部位に生ずることが多いです。
- 皮膚表面の一番外側には硬い層である角層があり、さまざまな外的刺激から皮膚を守っています。しかし、何らかの原因によって皮膚の一部分にだけ慢性的な物理刺激が加わり続けると、それに対する防御反応として一部の角層が異常に厚く硬くなってしまいます。刺激を受けて硬くなった角層は、皮膚への圧迫が続かないと、盛り上がってタコとなるのですが、皮膚の上からの圧迫が続くと、角層は盛り上がることができず、皮膚の下に食い込むようになり、魚の目が形成されます。特に皮膚のすぐ下に骨があると、皮膚の上からの物理的刺激が骨に阻まれて、その間にある皮膚の角層が厚くなり、魚の目ができやすいと考えられています。
- 魚の目は足の裏のほか、指のふちや関節の出っ張りの付近などにできることもあります。
- 皮膚への慢性的な刺激の主な原因は、以下のようなものがありますが、これらはタコの原因にもなります。
- 足のサイズに合わない靴を無理に履き続けている(大きい靴、小さい靴、ハイヒールなど)
- 長時間の歩行
- 足の形状(外反母趾、扁平足、O脚、がに股など)
- 歩き方(股関節・膝関節異常、脳血管障害による歩行障害など)
魚の目の症状
- 魚の目は角質の芯が小さいうちは痛みはなく、皮膚の硬化や乾燥などの違和感を抱く程度です。かゆみや赤みなどの炎症はありません。
- 魚の目を放置していると芯はどんどん大きくなり、楔状(けつじょう:くさび形)に皮膚の奥に食い込んでいくようになります。
- 楔状の芯が皮膚に食い込むと、歩いた時や指で押した時などに芯が痛覚神経を圧迫し、歩けないほどの激しい痛みが出てきます。
- 半透明の芯の部分はとても硬く、削っても出血することはありません。
魚の目と間違いやすい疾患
- 魚の目と似ていて間違いやすい皮膚疾患には、以下のようなものがあります。
タコ
皮膚の一部が硬く盛り上がる状態になります。医学的には「胼胝(べんち)」といいます。タコは魚の目と同じように、合わない靴を履き続けるなどして足に慢性的に刺激が加わることで角層が異常に厚くなって形成されます。ただし、魚の目の場合は肥厚した角層が楔(くさび)のように皮膚に食い込むのに対し、タコの病変では角層が表面の方向に盛り上がっていきます。したがって、タコの場合は通常、圧痛はありません。
いぼ
いぼとは皮膚表面が盛り上がっている小さなできものの総称です。医学的には「疣贅(ゆうぜい)」と呼ばれ、ウイルスを原因とするものや老化・紫外線が原因でできるものなど、さまざまな種類があります。足の裏や指にできるいぼはたいてい、ウイルスを原因とするものです。
ウイルス性のいぼ
最もよく見られるのは「ヒトパピローマ」というウイルスを原因とする「尋常性疣贅:じんじょうせいゆうぜい」です。粟粒大~小豆大ほどの硬く盛り上がったいぼができます。いわゆる「水いぼ」と呼ばれるいぼ(伝染性軟属腫:でんせんせいなんぞくしゅ)も、ポックスウイルスというウイルスを原因とするいぼです。1~7才の子どもに多く、粟粒大ほどのいぼがたくさんできます。そのほか、稀な疾患ですが、手のひらや足などにできるいぼとしては、ミルメシアがあります。ミルメシアはタコにとてもよく似た見た目をしていますが、ヒトパピローマウイルスを原因とするいぼです。
魚の目で医療機関を受診する目安
- 魚の目は一度できてしまうと自然治癒はできません。皮膚を刺激している根本的な原因を取り除かないかぎり、どんどん芯が大きくなって、次第に激しい痛みを生じるようになります。
- 歩いたり、押したりすると痛い、痛みで歩行ができないなどの自覚症状がある時は皮膚科を受診し、医師に相談してください。
- 魚の目が気になるからといって自分で削ったり、むやみに触ったりするとそこから雑菌が入り込んで感染を起こすこともあります。魚の目が赤くはれてきた時は細菌感染を起こしている可能性があります。適切な治療を受ける必要があるため、医療機関を受診しましょう。
- 魚の目だと思っていても、実は別の皮膚疾患の可能性もあります。別の皮膚疾患であった場合はそれぞれに合った治療法が必要です。皮膚を上から圧迫して痛ければ魚の目、痛くなければタコと考えるのが一つの目安です。ただし魚の目かどうか見分けがつかない時は皮膚科専門医の診察を受けましょう。
魚の目の治療法
- 魚の目は多くの場合、自然治癒しないので魚の目を除去する治療が必要です。
- 初期であれば市販のOTC医薬品でセルフケアをすることもできます。魚の目を除去するための塗り薬や貼り薬を数日間塗って角層を柔らかくし、その後中心部の芯の部分をピンセットなどで取り除きます。ただし塗り薬や貼り薬は魚の目の中心部の小さい部位につけることが重要です。
- 自分で除去できない場合は皮膚科や形成外科医が除去します。
魚の目の予防法
- 魚の目を予防するには根本的な原因である皮膚への慢性的な刺激を取り除く必要があります。例えば、自分の足に合う靴に履き替える、歩き方の癖を直す、長時間の歩行を控えるといった日常に潜む要因を取り除きましょう。
- 職業や生活習慣によっては上記の要因を完全に取り除くことが難しい場合もあります。その際は、専門の靴店に相談して、足への負担の少ない靴を選んだり、中敷きやパッドなどを活用してみたりするのもよいでしょう。
- 摩擦が生じやすい部分に保湿剤や角質軟化剤などを塗ることも、皮膚への刺激を軽減するのに役立つため、日常から足のケアを行いましょう。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。