ヘパリン類似物質は、乾燥による皮膚トラブルの治療薬として医療現場で広く使用されている保湿剤です。ヘパリン類似物質には、軟膏、クリーム、ローションなどのタイプがあり、患部の状態や好みの使用感によって選べます。
この記事ではヘパリン類似物質の作用や、効果的な使い方、使用する際の注意点などについて詳しく解説します。
ヘパリン類似物質とは
ヘパリン類似物質は、優れた保湿効果を持ち、慢性的な乾燥肌や炎症、肌荒れなど、皮膚科領域の治療に用いられる医薬品です。また、血行促進作用や抗炎症作用もあり、外傷(打撲、捻挫、挫傷)による腫れなどにも使用されています。
もともとヘパリン類似物質は、人の体内で生成される「ヘパリン」という物質の構造に似せて、人工的に作り出した物質です。「ヘパ」は、ギリシャ語で「肝臓」のことを指しますが、ヘパリンは肝臓でつくられ、血液を固まりにくくする「抗凝固作用」があるため、医療の現場では血栓塞栓症の予防や治療、カテーテル挿入時、人工透析の際に血液が固まるのを防ぐ目的などで長年使用されてきました。
ヘパリンとヘパリン類似物質は、どちらも医療現場で使用されていますが、効能や治療目的が異なる別の医薬品です。
代表的な保湿剤
皮膚科で使用する保湿剤にはさまざまな種類があります。保湿剤の大まかな分類としては、角質層に水分を届けることで皮膚を保湿する「モイスチャライザー」と、油性成分によって皮膚内部の水分の蒸散を防ぐことで保湿する「エモリエント」の二つのタイプがあります。
ヘパリン類似物質は、モイスチャライザーに分類される保湿剤であり、皮膚科で用いられる保湿剤として代表的なものの一つです。
■代表的な保湿剤の種類と特徴
保湿のタイプ | 剤形 | メリット | デメリット | 主な効能・効果 | |
ヘパリン類似物質 | モイスチャライザー | 軟膏、ローション、スプレー、フォームなど | 高い保湿効果 ベタつきにくく、塗りやすい |
種類によっては匂いが少しある | 皮脂欠乏症、凍瘡、傷痕・火傷痕・ケロイドの治療など |
尿素 | モイスチャライザー | 軟膏、ローション | 高い保湿効果 ベタつきにくい |
炎症のある部位に塗ると、刺激が起こる場合もある | 老人性乾皮症、角化症、魚鱗癬など |
ワセリン | エモリエント | 軟膏 | ほかの保湿剤と比べると価格が安い 刺激が少ない |
ベタつきやすい | 皮膚の保護剤 |
代表的な保湿剤の有効性について比較した研究によると、ヘパリン類似物質は、表に示した三つの保湿剤の中で最も角質水分量の改善効果が高く、次に尿素、ワセリンの順であったと報告されています。
保湿剤には、角質層の水分保持を高める作用があるもの、角質層を柔らかくする作用に優れているもの、バリア機能を補強する効果があるものなど、それぞれ異なる特徴があります。そのため、症状や使用する人の好みに合ったものを選択できます。
ヘパリン類似物質の作用
ヘパリン類似物質は水に溶けやすく、保水性に優れた特徴があります。皮膚に塗ることで、表皮の角質層に適度な水分を行きわたらせて保湿します。これにより、皮膚の乾燥によって起こる症状に対して治療効果を発揮します。
ヘパリン類似物質のモイスチャライザーとしての効果は、ワセリンのようなエモリエント効果を持つほかの保湿剤とは異なり、角質層の内部に浸透して働きかけるため、高い保湿効果があります。その他にも、血行を促進する作用や抗炎症効果があることが知られています。そのため、医療現場では皮膚の保湿剤としてだけでなく、外傷(打撲、捻挫、挫傷)による腫れ、火傷痕の治療、肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防にも使用されています。
また、赤ちゃんから高齢者まで幅広い世代で使用できるため、医療用医薬品だけでなく一般用医薬品や薬用化粧品としても活用されています。
ヘパリン類似物質の種類
ヘパリン類似物質を含む保湿剤としては、軟膏、クリーム、ローションなど多くのタイプ(剤形)があり、部位や症状、使う人の好みによって選択できます。
- 軟膏
軟膏は油性の基材(ベースになる素材)に混ぜて作られている塗り薬です。油性のため保湿性が高く、皮膚表面を保護する効果もあります。刺激が少ないのもメリットで、皮膚の弱い人やデリケートな部位にも使用できます。
だだし、クリームやローションと比べる質感が重いので、べとつきやすく、使用部位や季節によっては好まれないこともあります。 - 油性クリーム(油中水型)
油性クリームは、水性と油性の基剤を乳化させて作った塗り薬です。軟膏よりも質感が軽く、肌馴染みのよさ、高い保湿効果を兼ね備えています。油分で水分を包む構造のため、皮膚表面を保護する効果も期待できます。
軟膏のベタベタした質感が苦手な人におすすめで、夏場に使いやすい剤形です。軟膏に比べるとやや刺激があり、敏感肌の人、デリケートな部位には適さない場合もあります。 - 親水クリーム(水中油型)
親水クリームも水性と油性の基剤を乳化させて作った塗り薬です。軟膏や油性クリームよりも質感が軽く、夏場に使いやすい剤形です。水分で油分を包む構造をしているので、肌への馴染みもよく、乾燥した表皮に水分を届ける効果があります。
油水クリームと同様に、軟膏のベタベタした質感が苦手な人におすすめですが、やや刺激があるため、敏感肌の人、デリケートな部位には適さない場合もあります。 - ローション
水性の基剤を使用しています。軟膏やクリームよりも質感が軽く、さっぱりとした使い心地です。
軟膏のように皮膚表面をカバーするような効果はありませんが、伸びがよいので、広範囲に塗りたいときや、暑い季節に使いやすい剤形です。
ヘパリン類似物質の使い方
ヘパリン類似物質は、1日1~数回、適量を患部に擦り込むようにします。
使用量は、クリームタイプであれば、フィンガーチップユニットを目安にします。大人の人差し指の先端から第一関節までの長さを経口5㎜のチューブから押し出した量(約0.5g)を1FTUとし、これを大人の手のひら2枚分の広さに塗り広げるようにしましょう。
ローションタイプは、1円玉大くらいを手に出しましょう。大人の手のひら2枚分の広さに塗り広げるのが適量です。
塗り方のポイント
ヘパリン類似物質などの外用薬を効果的に使用するには、塗り方にも注意が必要です。皮膚の表面は、一定方向に多くの溝(皮溝)があります。例えば、手や腕では縦方向ではなく横方向に、胴体では中心部から外側に向かって走行しています。保湿剤を塗り広げるときは、皮溝の向きに沿ってやさしく伸ばしましょう。そうすることで皮膚に効果的に浸透します。
ただし、5~6日間使用しても症状がよくならない、または悪化している場合はすぐに使用を中止して医療機関を受診しましょう。また、すでに皮膚に赤みやブツブツなどの炎症、ひび・あかぎれによる出血や腫れがある場合は、ヘパリン類似物質を使用することはできません。ステロイド外用剤を使って炎症をおさえる治療が必要なため、医師または薬剤師に相談しましょう。
監修
天下茶屋あみ皮フ科クリニック 院長
山田貴博 先生
2010年名古屋市立大学医学部卒。NTT西日本大阪病院(現・第二大阪警察病院)にて初期臨床研修後、大阪大学大学院医学系研究科 神経細胞生物学講座助教として基礎医学研究に従事。阪南中央病院皮膚科勤務を経て、2017年天下茶屋あみ皮フ科クリニック開院。