「衣服のタグや化粧品などの刺激で肌がヒリヒリする」「空気の乾燥によって肌が荒れる」など、多くの人は気にならないような刺激がきっかけで、皮膚に違和感を覚えたり、赤み・かゆみが出たりすると、「もしかして、これって敏感肌?」と感じることがあります。しかし、一口に「敏感肌」といっても、皮膚の状態はさまざまです。敏感肌の特徴や敏感肌になる原因、敏感肌の対処法などを解説します。
敏感肌はどのような状態?
「敏感肌」という用語は、医学用語ではなく、一般の人が使う言葉なので、人によって使い方が異なります。一般的に言われている「敏感肌」とは、普段使わない化粧品を使った時や、毛糸・化繊の衣類を着た時などに、皮膚にチクチクやヒリヒリといった違和感が生じた状態のことを指します。
本来、健康な皮膚には、皮膚表面の「角質層(角層)」と、皮脂膜のコーティングからなる「皮膚のバリア機能」が備わっています。この皮膚のバリア機能は、身体の表面を覆い、みずみずしさを保つとともに、化学物質やアレルゲン、摩擦、紫外線などの外的刺激が皮膚に侵入しないように、ブロックする働きがあります。
しかし、敏感肌の場合は、この最前線で皮膚を守るバリア機能が著しく低下しているために、衣服の擦れや化粧品に含まれる物質、空気中のアレルゲン、紫外線、温度変化など、健康な皮膚であれば跳ね返してしまうような刺激が侵入しやすく、皮膚が過敏に反応してしまいます。そのため、皮膚に違和感が生ずると考えられています。
敏感肌の症状
敏感肌の人に共通するのは、皮膚の乾燥、いわゆる「ドライスキン」です。バリア機能が損なわれているために、皮膚から水分が蒸発しやすく、洗顔・入浴後につっぱりやすいという特徴があります。
その他、敏感肌の人が感じる皮膚の状態は、以下のようなものがありますが、個人差があります。
- 皮膚がカサついていてつっぱりやすい
- ヒリヒリやチクチクした痛み、ほてりなどの不快感が出やすい
- 刺激を受けると皮膚が赤くなりやすい
- かぶれやすい
- 皮脂のバランスが不安定で、乾燥したところと脂っぽいところが混在している
- ニキビやブツブツなどの皮膚トラブルが起きやすい など
上記のような皮膚の状態を、年間を通して常に自覚しているという敏感肌の人もいれば、特定の時期や、体調不良の時に一時的に自覚するという敏感肌の人もいます。
敏感肌になるきっかけ
敏感肌になるきっかけとしては、以下のようなものがあります。
- 化粧品や洗剤類などに含まれる成分による刺激
- アルコール消毒や紫外線による皮膚へのダメージ
- 毛糸や化繊でできた衣類・下着類による擦れや圧迫
- シェービングやピーリング剤の使用などによる皮膚へのダメージ
- 洗いすぎ、擦りすぎ、保湿ケアをしないなどの間違ったスキンケア など
皮膚のバリア機能が正常に働いていれば、跳ね返せるような刺激であっても、敏感肌の人にとっては違和感が生じるきっかけとなります。
顔以外の部位も敏感肌になる
敏感肌は顔のイメージがありますが、顔以外のどの部位でも敏感肌になることがあります。洗剤やアルコール消毒に触れやすい手指、もともと皮脂が少なく乾燥しがちな背中・おなかの周り、粉をふきやすいすねの部分なども敏感肌による不快感を生じやすい部位です。頭皮の場合は、しつこいかゆみやフケが生じることもあります。
敏感肌の予防法
敏感肌を予防するには、ドライスキンを改善し、皮膚のバリア機能を回復させることが大切です。正しいスキンケアで皮膚を清潔に保ち、保湿ケアする習慣を身につけましょう。
まず見直したいのが、洗顔・入浴方法です。洗顔・入浴は毎日欠かせないものですが、洗いすぎや擦りすぎなどによって皮膚を傷つけ、バリア機能を低下させる原因になっている場合があります。穏やかな洗浄力の洗顔料・ボディソープを使用し、よく泡立ててからやさしく洗いましょう。ボディータオルなどで強く擦ったり、ピーリング剤を使用したりすることは、皮膚にとって大きなストレスになるため、避けてください。
目元や口元のメイクを落とす時は、専用のクレンジング剤を使用すると、皮膚の擦りすぎを防ぎ、汚れを落とすことができます。また、日常生活の中で、こまめに保湿ケアを取り入れることも重要です。洗顔・入浴後はもちろん、乾燥が気になった時は、化粧水で水分を補うだけでなく、油分を含んだ保湿クリームやワセリンで保湿し、皮膚を乾燥から守りましょう。
その他、日中は日焼け止めを活用して紫外線によるダメージを防いだり、生活習慣を見直したりすることも、健康的な皮膚を取り戻すのに役立ちます。
敏感肌の対処法
敏感肌に対しては、保湿剤によるケアが中心になります。乾燥が気になるタイミングで、一日数回、保湿剤を塗ってください。特に、洗顔・入浴後は皮膚が乾燥しやすい状態になっているため、必ず保湿ケアを行いましょう。保湿剤は、皮膚への刺激が少ない「ワセリン」や、天然保湿因子を構成する「尿素」や「セラミド」を含んだクリームなどの中から、好みに合ったものを使用してください。ただし、かゆみや赤みなどの皮膚トラブルがでた場合は、そこに炎症が起きているサインです。炎症のある部分に対しては、ステロイド外用剤を塗ってすみやかに治療しましょう。
敏感肌で病院に行く目安
正しいスキンケアや保湿を続けても改善されず、敏感肌の状態を繰り返す場合は、アレルギーやアトピーなどの病気が関係していることも考えられます。自己判断せず、医師に相談しましょう。
赤みやかゆみなどの症状に対して、ステロイド外用剤を5~6日間使用しても症状が改善しない、あるいは悪化している場合、がまんできないほどのかゆみがある場合は、ステロイド外用剤の使用を中止し、医療機関を受診してください。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。