今や生活必需品となったマスク。従来、マスクはどちらかといえば冬場に着けるものというイメージがありましたが、感染症対策を重視する新しい生活スタイルでは、暑い夏場でもマスクを着ける習慣が定着してきました。
そんな夏のマスク生活で気になるのが、紫外線対策との関係です。朝の身支度の時、マスクの下にも日焼け止めを塗るほうがよいのか、塗らなくてもよいのか、迷ったことはありませんか?
「マスクをしていれば、日焼け止めは塗らなくても大丈夫だろう」と思っている方もいるかもしれませんが、それは間違いです。夏のマスク生活でも、正しい日焼け止めの使い方を知り、紫外線のダメージから皮膚を守りましょう。
マスクをしていても日焼けは防げない
顔の下半分を覆うマスクは、光を遮り、日焼けを防いでくれるのでは?と考えてしまいます。しかし、残念ながらマスクで日焼けを防ぐことはできません。
もちろん、何も着けていない肌に直射日光を浴び続ける場合と比較すると、肌の上にマスクが1枚あることで、紫外線による影響はわずかに軽減できます。しかし、一般的な不織布マスクの場合、通気性を重視して作られているために、光の遮蔽能力は低く、紫外線の約20%は皮膚に到達することがわかっています。また、マスクをしっかりと密着させて着用しているつもりでも、上下左右のわずかな隙間から紫外線が侵入してくるため、真夏の直射日光を遮ることはできません。
さらに、マスクの紐で影になる部分や、目の下とマスクの境目などに、日焼けによる色ムラが発生する恐れもあります。不織布マスクなどは、あくまでも感染症対策を主な目的としたものであって、日焼けを防ぐ効果はないものとして考えましょう。
紫外線対策に取り入れたいUVカット仕様のマスク
マスクの紫外線透過率は、マスクの素材によっても大きく異なります。最近では、紫外線をカットできる特殊な素材を用いたマスクも開発されているため、マスクに紫外線対策の効果を求める場合は、UVカット使用のマスクを選びましょう。
「UVA(紫外線A波)」・「UVB(紫外線B波)」とは
そもそも、日焼けを引き起こす紫外線には、波長の長い「UVA(紫外線A波)」と、波長の短い「UVB(紫外線B波)」の主に2種類があります。これらの紫外線は、私たちの健康に欠かせないビタミンDの合成などにも役立つ一方で、過剰に浴びすぎると、シミやしわなどの老化現象や、皮膚の赤みやヒリヒリとした痛みなど、やけどをした時のような炎症を引き起こします。
UVAは、地上に降り注ぐ紫外線の90%以上を占める紫外線で、皮膚の奥深くまで侵入して、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などを作り出す細胞にダメージを与えたり、メラノサイトを刺激して黒い色素を増やしたりします。UVAはUVBに比べてマスクを通り抜けやすい性質があり、その影響は時間をかけてじわじわと現れてくるため、気付かないうちに、うっかり日焼けしてしまったということもあります。
一方、皮膚の赤み・ヒリヒリした痛みなどの炎症は、UVBが主な原因で、紫外線を浴びた直後から症状が出始めます。UVBは、UVAよりも紫外線量は少ないものの、表皮の細胞のDNAを傷つけ、細胞に大きなダメージを与えます。マスクをしていても、海や山などのレジャーで、一度にたくさんの紫外線を浴びると、赤みやヒリヒリした痛みなどの症状が出ることがあります。このように、皮膚に大きなダメージを与えたり、老化を引き起こしたりする紫外線ですが、UVカット仕様のマスクを着けることによって、紫外線の害を大きく軽減することができます。
UVカット仕様マスクの選び方
UVカットを目的にしたマスクを使用するにあたっては、まずUVカット加工が施されているか、その効果が数値で示されているかチェックすることが大切です。
まずは「紫外線遮蔽率」に注目しましょう。紫外線遮蔽率とは、紫外線をどれだけ遮るかを表す値で、この値が100%に近いほどUVカット効果が高いことを示しています。十分なUVカット効果を得るためには、紫外線遮蔽率が100%に近いものを選ぶとよいでしょう。
UVカットマスクを選ぶ際は、暑い季節でも快適に過ごせる機能性を備えているかどうかチェックすることも大切です。長時間着けていても、耳が痛くならないよう配慮されているものや、蒸れて息苦しくならない素材が取り入れられているものを選ぶようにしましょう。最近では、暑さ対策として、汗をかいても蒸れない速乾タイプの繊維や、汗に触れて涼しくなるクールタイプの繊維を使用したものもあり、選択肢の幅が広がっています。
自分の生活スタイルや好みに合ったUVカットマスクを選んで、夏のマスク生活を快適に過ごしましょう。ただし。製品によって性能の差がありますので、日焼け止めをきちんとつけた方が安心です。
マスク焼け予防におすすめ!日焼け止めの選び方と使い方
素肌にマスクを着けるだけでは、マスク越しの日焼けや、マスクの隙間からの日焼けによって、色ムラや光による影響で肌に現れる老化現象が起きてしまいます。マスクで覆われている頬、口の周りにも、しっかりと日焼け止めを塗ることが、マスク焼け予防の基本です。
ただし、ここで注意点があります。マスクの中は常に高温多湿で蒸れやすく、汗や皮脂が溜まって雑菌も増えやすいという、肌にとっては過酷な状況です。おまけにマスクによる摩擦もあいまって、皮膚トラブルが起きやすくなっています。
マスク着用前提の日焼け止めの選び方
マスクをすることを前提にした場合は、SPF値やPA値で示されるUVカット効果が高いものを選ぶよりも、ほどほどのUVカット効果があり、肌への刺激が少ないものを選んだほうがよいでしょう。
「SPF値、PA値」については、以下の記事の【日焼け止めの表記「SPF値、PA値」の見方】をご確認ください。→『日焼け(日光皮膚炎)の症状・治療法』ページを見る
最近では、ファンデーションの代わりとして使えるようなベージュ系の日焼け止めや、微香性の日焼け止めも見かけますが、マスクに日焼け止めの色や匂いが付着するのを避け、マスク生活を快適に過ごすためには無香料・無着色のものを選ぶことをおすすめします。
汗や水に強いタイプの日焼け止めも人気がありますが、マスクによる摩擦には弱く、短時間で落ちてしまいます。休憩時間にはマスクを外して、マスクで擦れる部分を中心にこまめに塗り直すようにしましょう。つまり日焼け止めは数時間おきにある程度の量を塗らないと、効果が十分でないことも念頭において下さい。
日頃の保湿ケアも忘れずに
高温多湿な夏場でも、保湿ケアが必要です。実は、マスクで常に蒸れている皮膚は、表皮がふやけたような状態となり、外気の変化などの刺激にも弱くなっています。いきなりマスクを外したり、暑い外からエアコンのよく効いた部屋に入ったりすると、皮膚から水分が急激に抜けだして乾燥してしまい、思いのほかダメージを受けますので、日頃の保湿ケアも忘れないようご注意ください。
マスク焼けをしてしまった場合のアフターケア
日焼け止めを塗るのを忘れて外出したり、日焼け止めを塗り直すタイミングを逃したりして、うっかりマスク焼けをしてしまった場合は、正しいアフターケアをすることで、ダメージを軽減することができます。日焼けによる赤みが気になる時は、できるだけ早く患部を冷やしましょう。ただし、冷やしすぎると肌を痛めてしまう場合もあるため、冷たい水で濡らしたタオルで冷やす程度にします。保冷剤や氷を使う場合は、布に包んで間接的に冷やしましょう。
マスク焼けを予防するためには、
1.日焼け止めとUVカットマスクを活用して、紫外線を浴びないようにすること
2.冷却と保湿による早めのアフターケアを心がけること
が大切です。
監修
帝京大学医学部皮膚科 名誉教授
渡辺晋一先生
1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。